女ひとりの危機を脱出する (遥洋子の「男の勘違い、女のすれ違い」):NBonline(日経ビジネス オンライン)
結局はそこなのだ。どれほど頑張って生きていても、力仕事は女ひとりの手痛さを思い知らせる。それ以外は人生のどの場面でも自分が女であることにほぼ不便を感じることはないというのに。運ぶ腕力がなければ、そこに自分のソファーがあるだけで、女はその場所を永遠に離れられないということか。
底知れない恐怖がひとり暮らしの夜を襲った。離婚したいのに経済力がないためにその夫から離れられない女の恐怖もこんなものなのだろうかと、想像した。結局、腕力がなくても、経済力がなくても、人はその場から逃れられない。ふと電話帳が目に入った。パラパラとめくっていくと、リサイクルショップの広告がいくつかあった。すがる思いで電話した。
初めて一人暮らしを始めたアパート(2K)は、軽量鉄骨二階建て。 トイレ・風呂有りだがエアコンはなかった。 そこでは8年間暮らした。
天井も壁も薄くて、夏は暑く冬は寒かった。 今ぐらいの時期は、休みの日はどこにも行かず、昼間から缶ビールロング缶2本飲んで、汗ダラダラ掻きながらパソコン通信してたっけ(コレは今も変わらないジャン!)。 当然彼女などいなかった。
そんな生活を続けていたのだが、気がつけばもう28歳。 いつまでもこんな暮らしじゃダメだと、契約更新を機に引越しをすることにした。
そのアパートと会社との中間地点に、古い住宅都市整備公団のアパートがあった。 入居していた職場の先輩の話を聞くと、築25年超なので独り者でも2DKに住めるし、家賃も今までとほとんど変わらなかった。
有休を取って、新宿の公団本社で開催される入居希望者の説明会に出た。 希望者が多い場合は抽選とのことだったが、競合もなくあっさりと契約できた。
嬉しかったのは洗濯機が室内に置けたこと。 前のアパートは玄関横に蛇口があってね。 どうしても洗濯するのが遅い時間になるのだけど、振動で暴れまわる2曹式洗濯機を押さえつけるため、寒い冬でも外で付きっ切りだったし。 引越しする少し前に、全自動洗濯機を買った時は嬉しかったぁ。
そんなことはどうでもいいのだけど、問題は引越しをどうするか? 当然、業者に頼むようなお金はない。
友人や同僚に手伝いを頼む手もあったけど、自分が引越しを手伝った経験からすると、やっぱり大変だし頼みたくなかった。 となると自力で運ぶしかない。
免許はあったけどクルマはない。 どのみち家財道具を運ぶには1BOXを借りるしかないのだが、問題はペーパードライバー暦10年のドライバーの方。 新居までは片道わずか2kmの距離だが、本当に運転してなかったからね。
金曜日の夜、会社の近くのレンタカー屋でボンゴのロングかなんかを借りた。 レンタカー屋を出てから数百メートル、何か加速が鈍いと思ったら、サイドブレーキ引きっぱなしだった。
そのまま新居近くの道路(道が広かった)をグルグル走って独り路上教習。 夜10時を過ぎ交通量が減った頃を見計らって引越しを開始した。
一人暮らしとはいえ、オーディオが趣味だったので、自作のバカでかいラックやスピーカー(NS-1000M)などもあった。 ハンズで買ったパイプベッドも、分解して運んだよ。
最難関はテレビ。 SONYのPROFEEL STAR(KV-29FX1 )は重さが70kg以上あったと思う。 しっかりした持ち手がついていたので助かったけど本当に大変だった。 これを一人で2階から降ろしてクルマに積んだのだけど、今考えると何事もなく移動できたのは奇跡のようだね。 今やったら確実に腰が壊れるよ。 このテレビは今でも嫁の実家で動いている。
新居は8階建ての7階だったけど、エレベーターが止まる階(1、4、7階しか止まらない)だったので問題なし。 クルマは3、4往復したし、エレベーターは50往復くらいしたんじゃないかな。 夜中にカートをゴロゴロ押してると響いてね。 相当に近所迷惑だったろうと思う(苦情はなかったけど)。
結局、一晩掛かってあらかたの物は運び出し、クルマもどこにもぶつけずに返却することができた。 まるで夜逃げみたいだなと思ったよ。
引越しして、多少人並みの生活を送れるようになった(エアコンも湯沸かし器もある!)。 台所も広くなったので自炊する機会も増えたし、ベランダに洗濯物が干せるのでマメに洗うようになった。
団地内には西友があって、食料品や日用品を買う機会が増えた。 前のアパートは近くにセブンイレブンがあって、そこしか行ってなかったもんな(月5万円くらいは納めてた)。
団地に住んでいるのは、小さい子のいるファミリー(持ち家予備軍)と年金生活者、それと自分のような独り者が多かった。 近所付き合いはなかったけれど、周囲の生活感がいい意味で自分にも影響を与えていたのだろうと思う。
引越しで人の中身まで変わる訳じゃないけれど、でもその2年後には今の嫁さんと付き合うようになった訳だし、引越しの効果はあったのだろうと思う。 あのまま最初のアパートに居たら、いまだに独身かもしれないし。 下層そのものの生活をしていただろうと思うよ。
長々と書いた引越しの思い出。