Google Voiceを使い始めるには、まずグーグルが所有する電話番号のうち1つを選択するところから始める。この番号はリアルなアメリカ国内の電話番号で、日本の東京でいえば03番号、大阪なら06番号のような番号だ。ふつうの電話番号と違うのは、この番号は端末に紐付いたものではないということだ。端末への紐付けは明示的に、Google Voiceの設定で登録しておく。最大6台の電話(番号)を登録することができ、Google Voiceの番号に着信したときに6台までが同時に鳴るようになる。自宅やオフィスの固定電話、それから自分のスマートフォンなどを登録しておく。
このワン・ナンバーの機能によって、もはや端末やキャリア固有の電話番号を知人に伝えたり、書類に書いたりする必要はなくなる。グーグルがGoogle Voiceというサービスを提供している限り、あるいは同類のサービスへの移行が将来的に可能である限り、私の米国内での電話番号は、もうただ1つしか存在せず、それは決して変わらない番号となった。まだ国の壁は意識する必要はあるが、いずれこうしたワン・ナンバーはメールアドレスやSkypeのIDと同様に当たり前のものになるのではないかと思う。
出張に持参したSIMロックフリーのAndroid端末の調子が非常に悪くなり(バッテリが死んでいた)、急遽、現地で9ドルと格安の音声端末を入手したのだが、私にはその端末の番号(正確には同時に購入したSIMカードに紐付いた番号)を、誰にも教える必要はなかった。自分で覚える気も、さらさらなかった。ただ、Google Voice上で新たに1つ番号を追加登録しただけである。これで9ドルの使い捨て電話にも、私宛ての電話は、すぐに着信することになった。(中略)
日本ではMNPなどといって、面倒な事務手続きをやらされた上に転出料金や手数料で数千円も取られるが、雲泥の差だ。
電話番号は、IPアドレスのようなものであるべきだ。インターネット接続では、利用者が場所を移動したり、ISPを乗り換えたら番号(IPアドレス)は変わる。接続のたびに変わるのも珍しくない。しかし、IPアドレスが変わっても、メールは届く。Skypeだって、そのまま使える。IPアドレスが変わったことなど、私自身も、私にコンタクトを取ろうという人も誰も考えもしない。電話番号も、そのような存在であってほしいと思う。
Google Voiceはそういう不変の着信番号を提供してくれる。
あー、これ便利だわ。
ところで、
ところで音声サービスの話をすると、「でも、今さら電話なんてする? ほとんどメールかSMS、最近だとTwitterやFacebookで済むよね」という反応が多くの人から返ってくる。
私も通話機能を使うことは、ほとんどない。メールやSNSでつながっていても電話番号を知らない人はたくさんいる。
しかし、Google Voiceを使ってみて、ちょっと考えが変わった。私が音声サービスをだんだん使わなくなったのは、音声コミュニケーションが面倒だとか、適した場面が少ないからというばかりではなく、音声サービスがほかのテキスト系サービスに比べて使いづらいまま進化を止めてしまっていたからなのではないかと思うようになった。
キーを叩くよりも、しゃべったほうが楽で速いことはたくさんある。なぜそうしないかといえば、それは音声コミュニケーションによって、相手に「その場で聞くこと」「すぐに応えること」を強要するのが嫌だからである。相手の電話を鳴らすのは、相手の作業を中断して邪魔することだから、相応の理由がないと控えるべきだろう。しかも、もし相手が不在だと結局メールなどに頼るわけで、だったら最初からメールでいい、となるわけだ。
しかし、Google Voiceのように受信者に細かなコントロール権があるのなら、かける側が遠慮する必要はない。都合が良ければ取るだろうし、そうでなければ留守電にするだろう。後述するが、留守電を受けたほうは、必ずしも音声を聞く必要がないし、音声によって返信しなければいけないわけでもない。
メールだと否が応でも用件を文章にまとめるわけで、これにより要点を論理的に列挙することにもつながる。電話でダラダラしゃべられるよりマシという事情もあるかもしれない。しかし、音声コミュニケーションは双方向の行き来を短く繰り返すので、メールのようなもどかしさがなくて良いときもある。ひと言、「いえ、それは違います」と途中で話を制止して回答してもらえば5秒で済むような点について、5分もかけて文章を書くのはむなしい。相手の反応を伺いながら行うコミュニケーションには、大きなメリットがある。
よく「iPhoneは電話を再発明した」とか言いますが、真の意味での音声通話の再発明というのはこういうことを言うのでしょうね。