Business Media 誠:2030 この国のカタチ:仕事で自己実現ってホントにOK?――社会学者、鈴木謙介氏インタビュー(中編)
昨今、「若者がクルマを買わなくなった」と言われています。でも実際には特に地方なんかそうですけれども、車がないとどうしようもないというところがあります。クルマを買わなくなったというのは、正確にはクルマに乗らなくなったのではなく、クルマという価値を買わなくなったということなんです。
かつてマーケティングの世界では、クルマに対して「車格」、クルマの格付けっていう言葉がありました。この車格に応じて、「外車に乗っている奴が国産車に乗っている奴より偉い」であるとか、「大衆車よりも高級車に乗っている奴の方が偉いとかモテる(笑)」という価値観が形成されていたんです。今の若者は、こうした価値観を買わなくなったんですね。それは消費による自己実現、つまり「何を消費しているかがその人のステータスを表す」という価値観の弱まりを意味しているんです。
それは結局クルマがコモディティ化して、自己表現のツールとしての意味が薄まったということでしょう。 健全なことですよ。
でも舶来のブランド物とかはまだ若者に人気ですから、消費から自由になったのかは疑問です。
それはともかく
仕事による自己実現というのは、容易に、劣悪な環境で自分が働いていることを肯定することにつながります。
つまり、「自分がやりたいことをやっているんだから、多少苦しくても自分が選んだ道じゃないか」とか、あるいは「自分たちが置かれている状況は、こういう仕事を選ぶ以上、自分の好きなことをやっている以上、しょうがないんだ」という形で、本来ならばあまり推奨されないような仕事の環境が正当化されてしまう。(中略)
最初に両義的と申し上げたのは、「そういう風に仕事に夢を求めると、必ず食い物にされるから良くない」と思っているわけではないんです。食い物にする企業が悪いのであって、仕事に夢を持つこと自体は悪くない。だとしたら、「仕事による自己実現というものが、いかにして搾取に結びつかないようにするか」というシステムを考えるべきで、若者たちに「そうやって夢なんか見ちゃダメだよ」っていう風にお説教するだけでは、既存のシステムを維持するための「いい子競争」が繰り返されるだけです。そういうことを言いたいのであれば、少なくともその人の適正に見合った自己実現が可能になるためのアドバイスができる人材が必要です。
そんなこと言ったら、下積みが必要な職種はみんなブラックってことになりそうです。
ハイリスク・ハイリターンの仕事(俳優なんてのもそうですね)ってのもあるし、何をやるにせよ自分で決めろよな。 他人がどうこう言うもんじゃないと思うけど。
もちろん食い物にされている人も居るんだろうけど、監禁されて強制労働されてるのでない限り、職業選択の自由は保証されていると思うんだが。
ところで「仕事で自己実現」ですが、仕事に夢なんて持たずに、単に生きる糧を得るだけのものと割りきっている人も、世の中には大勢いますし全然悪いことでないと思います。 だって夢のある仕事しかしない人ばかりだと、困ってしまいますからね。