危機の真相:脱帽した中央銀行家=浜矩子- 毎日jp(毎日新聞)
金本位制を取る国の通貨は、一定の公定価格すなわち「金平価」でいつでも金と交換可能でなければならない。その状態を保つためには、自国の保有金の量を無視して、むやみやたらと通貨を発行するわけにはいかない。かくして、金本位体制を取る国の通貨発行量には、金という名の強い節度のタガがはめられる。この体制を堅持することで、ノーマン卿は、通貨価値の番人たる中央銀行の責務を貫こうとした。
このノーマン卿のスタンスに対して、イギリス政府が強い不快感を示した。世界大不況のさなかに、金本位制維持のために通貨発行量をケチるとは何事か。そのような姿勢を取るイングランド銀行こそ、デフレの元凶だ。金本位制など、さっさっと放棄して、デフレ脱却に専念すべし。そうした強い政治圧力がノーマン総裁を押し倒そうとする。
そのような恫喝(どうかつ)に屈するノーマン総裁ではなかった。何しろ、シティーの法王の異名を取る強面(こわもて)総裁だったから、政治家の脅しごときはどこ吹く風だった。ただ、イギリスの金本位制危うし、と踏んだ資本逃避の動きには、勝てなかった。金の裏打ち無き通貨となる前に、ポンドを金に換えておこう。そうした思惑に駆り立てられて、イギリスから金がどんどん流出することになった。これでは、おのずと金本位制の維持は難しくなる。
運命の金本位放棄の日が来た時、ノーマン総裁は次のようにつぶやいた。「我々は、今や大蔵省の道具と化した」。要はお国のための御用銀行である。政府の意のままに、通貨増刷に応じなければならない。ポンドの対外的な価値など、とりあえず、どうなってもかまわない。政府の指図通りに、成長資金を潤沢に供給しろ。それがお前らの仕事だ。
こんな具合に政府にあごで使われるようになってしまう。それを思えば、ノーマン卿にとって、もはや、シルクハットの輝きはあまりにもまぶし過ぎた。通貨価値の番人としての敗北宣言。脱帽するノーマン総裁の姿に、その深き苦悶(くもん)がいやというほどにじみ出ていた。
そりゃ確かにノーマン総裁にとっては挫折だったでしょうが、「オレが一番偉いんだ」と勘違いしていたんじゃないんですかね?
中央銀行が「お国のための御用銀行」じゃなくて、一体何だというのでしょう?
「中央銀行の独立性」が自己目的化しては意味が無いです。 それはあくまで実体経済が円滑に運用され、発展にしていくための手段でしょう。
中央銀行にとっては「強い通貨」というのは誇らしいものでしょう。
これまで日銀がデフレ退治に消極的だったのも分からなくもないですが、「日銀栄えて日本経済沈む」では意味が無いのです。
日銀だけが悪い訳ではないですが、政府の連帯保証人になっていることを忘れずにいてほしいですね。