今日の毎日新聞朝刊に、現地緊急対策本部で指揮を執った、逢沢一郎・副外相が寄稿していました。 全文引用します。
MSN-Mainichi INTERACTIVE 論点:イラク人質事件と自己責任
事件の第一報が報じられた翌9日、私は急遽(きゅうきょ)ヨルダンに向かい、現地緊急対策本部を立ち上げた。以降、官邸、外務省等と緊密に連携しつつ、関係方面への協力要請、情報収集・分析、定例記者会見を通じた情報発信等に努めた。(人質)3人を無事保護した後、経由地となるドバイへ赴き、早期帰国に向けた支援に全力を挙げた。こうした政府を挙げての昼夜を問わぬ取り組みと、協力していただいた各国・機関、多くの関係者による努力の結果、3人とともに帰国できたことは、大変うれしく思っている。
しかし、今後、同じような事件が発生した場合に同様の成果を得られる保証はない。この機会に、同様の事件の再発を防止するため、政府の役割と国民一人一人の自由と責任について、じっくり考えてみる必要がある。
海外に滞在する邦人の保護は政府の重要な任務の一つである。いかなる経緯があるにせよ、邦人が巻き込まれた事件が発生すれば、政府はその保護に全力を挙げて取り組む。しかし、現地の警察制度が未整備な状況では、邦人保護についても、日本政府ができることにはおのずと制約がある。
それゆえイラクには、03年5月に主要な戦闘の終結が宣言されて以来これまで28回スポット情報(注意喚起のための連絡)を出し、イラクへの渡航の見合わせ、同国からの退避を強く徹底して勧告し続けてきた。
しかし、残念ながら、今回の事件が発生した。私は、イラクのストリートチルドレンを支援したり、イラクの厳しい現状を世界に知らせる、という熱い思い自体は尊いものだと思う。しかし、もし事故があったとき必要となるエネルギーやコスト、そしてもっとも大切な国民一人一人の命に思いを致す時、自らの思いを行動に移す時期、手段等については慎重に検討していただく必要があると考える。
今回、御家族はもとより、国民の皆様は大変心を痛められたことと思う。また、日本政府・国民各層の要請に応えて、情報収集・人質探索に尽力していただいたイラク国内、アラブ諸国そして友好国の協力を忘れてはならない。更には、治安状況が悪いバグダッド市中を、自らの身の危険を顧みず、事件の解決に向けて奔走した日本政府の職員がいたこと、東京をはじめとして各地で多くの関係者が尽力したことも記憶に留めていただきたい。
事件の再発防止には、危険な地域への渡航を禁止する法律を制定すべきだ、との議論もある。度重なる勧告にもかかわらず渡航者が後を絶たない現実を前に、危険情報をより実効的に担保できないか、という問題意識からだと理解している。しかし、「海外渡航の自由」は憲法第22条で保障された権利であり、慎重に検討する必要がある。こうした憲法に掲げられた大切な自由を守るためにも、禁止や規制ではなく、あくまで国民の皆様が「自らの安全については自らが責任を持つ」という認識の下で行動していただくことが非常に重要だと考える。
「それが仕事なんだから、やって当たり前」という人もいるかもしれませんが、やはり今回の事件で(NGOや人質の支援者の方はもちろんですが)政府関係者も大変だったろうと思います。
教訓とすべき点は、今後の糧としていきたいですね。