【フォーサイトノンフィクション】 東芝「次世代DVD敗北」の偶然と必然 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト
東芝社内には、〇・一ミリの基本仕様に東芝のソフトウェア技術などを多く導入させて規格統一を図る和戦派もいたとされる。だが、「基本仕様は〇・一ミリ」との報道が先行するにつれ、東芝の交渉態度は頑なになった。盟主のプライドが刺激されていたのだ。
東芝は功績のある技術者に役員並みの報酬を与えており、山田はその第一号である。山田のために用意されたような制度だった。山田に与えられた首席技監・上席常務待遇は技術者の最高峰の肩書きであった。「藤井氏は本心では規格統一を望んでいるが、最終的に社内技術陣の強硬論を抑えられない」。ソニー・松下陣営はそうみていた。(中略)
多数派工作の失敗、久多良木の失脚、技術陣の強硬論、競争相手の優位を伝える日本のマスコミ論調、そして動かぬハリウッド。いくつもの誤算が重なってなお、東芝は開戦を決断する。〇五年五月十六日、HD DVDとブルーレイの両陣営はそれぞれ会合を開き、交渉決裂を報告した。東芝の最終決定権者は当時会長の西室と、社長の岡村正(現東芝会長・日本商工会議所会頭)だった。
いやー、本当に太平洋戦争に突入するときの日本を見ているかのようですね。 日本人や日本の組織がハマる悪いパターンというか。
続きです。
いま思えば、ワーナーとパラマウントが二股支持に転じた時点で大勢は決していたのかもしれない。だが、東芝にとりマイクロソフトも巻き込んで回り始めた大きな歯車はもはや止められないところまできていた。
東芝は追い立てられるように先手を取り続ける。製品投入で先行し、ソニー陣営より先に顧客を掴もうと動いたのだ。(中略)
交渉役から司令塔に転じた藤井は発表会で「ブルーレイが優れている可能性もゼロではない。その時は土下座して謝る」と大見得を切る。そして、「今年度百万台超(の出荷)を期待している」としたうえで、ソニー・松下陣営とは「コストと速さの勝負になる」と語った。東芝陣営のプレーヤー一号機の価格は日本で十一万円前後、北米では七百九十九ドル。北米では四百九十九ドルの廉価版も発売した。
東芝は乾坤一擲の賭けに出たのだった。日本市場を捨て、北米に全精力を傾ける。最大市場の北米で勝てば、欧州も日本もなびく。日本ではレコーダーが主流だが、北米ではプレーヤーで映画ソフトを見ることが多く、わざわざディスクに録画する文化はない。北米でいかにプレーヤーを浸透させるかが勝敗を分ける……。東芝は攻勢を続けた。
要するに「パールハーバー」で先手を取って、有利な条件で早期講話に持ち込もうというところでしょうか?
「ブルーレイが勝った、勝った、と言うので敗北宣言を期待している人もいるかもしれませんが……」。藤井は〇七年六月十二日、HD DVDレコーダーの発表会でそう切り出し、欧米の販売状況の説明を始めた。北米では低価格プレーヤーでシェアを伸ばした。四月は六〇%を超え、五月は七〇%に迫っている。「なぜブルーレイが勝ったと言えるのか、ワンダーしている」。藤井はソニー・松下陣営を挑発した。
藤井が語ったシェアにPS3などゲーム機は含まれていないが、実際、東芝はこの頃、欧米でブルーレイと互角以上の戦いを繰り広げていた。
その武器はなりふり構わぬ安値攻勢だった。二百九十九ドルのプレーヤーに映画ソフト三―五本を無料でつける。その後、プレーヤー価格を百九十九ドルにまで値下げした。ウォルマートに至っては九十八ドルで限定特売したこともある。四百九十九ドルだった廉価版プレーヤーの価格は二年も経たない〇七年の年末商戦では百九十九ドルまで下がり、おまけに映画ソフトが七本も無料でついた。
両規格を扱っていたパラマウントが〇七年八月に東芝陣営の単独支持に戻ることを表明するが、東芝はその見返りに一億五千万ドルの販売奨励金すなわちリベートを提供したとされる。「原子力発電と半導体で得た利益をつぎこまれては(市場全体が値崩れで)焼け野原になってしまう」。ソニー・松下陣営が「焦土作戦」と皮肉る捨て身の攻撃だった。
米メディアによると、東芝はワーナーとウォルマートにも奨励金の提供を申し出たとされる。ブルーレイ陣営も量販店に奨励金を持ち掛け、北米での戦いは激しさを増す一方となった。
ビジネスなんで、カネで味方を増やそうというやり方もアリなのかもしれませんが、東芝という会社のコンプライアンスはどうなっているのか心配になりますね。