高級ブランド依存で変質していった『NAVI』

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商品ジャーナリズムで「消費社会」は描けない:日経ビジネスオンライン

NAVIはスタイルの独自性から既存の自動車ジャーナリズムの中では「浮き」気味で、新車試乗会に招待されてそこで試乗の機会を得て、同時に撮影もして紹介記事を加えて雑誌ページを作る自動車雑誌従来の編集スタイルが取りにくかったが、ある程度、雑誌の社会的認知が進むと試乗会の案内も編集部に寄せられるようになる。
 
そして時には自動車好きの垂涎の対象である超弩級のスーパースポーツカーの試乗もできるようになり、それを特集仕立てにできることがあった。
 
そうした号はよく売れた。そんな経験を単発的に何度か繰り返し、試しに特集まで作らずとも、スーパーカー的なモデルを借りてきて数ページのグラビアを作り、表紙にもその姿を出すとやはり部数は出る。当時の副編集長が書店経由の販売実部数報告を見て、自嘲気味に「簡単なものだな」とつぶやいたのを覚えている。その瞬間からNAVIは変わったのだと思う。

ボロいイタ車やフランス車に乗るエンスーばかりを取り上げても、商売にはならなかったでしょうからね。

自分も小学生の頃にスーパーカー・ブームの洗礼を受けていますから、舶来の高級車の魅力はわからんでもないです。 しかし手の届かないスーパーモデルよりも、バラエティ番組に出てくるグラビアアイドルの方が「オカズ」になるように、外車中心に記号論で語る編集方針には限界があったんじゃないでしょうかね。
外車購入層のバイヤーズガイド的雑誌は他にもありますし。

もちろんそうした高額希少車の所有も1つのライフスタイル、人生観の「記号」であり、NAVI的に、つまり記号消費論として論じられないことはなかった。しかし、その論じ方はやがて質的な変化を遂げる。
 
「このクルマの記号はかくかくである」と示す編集は、リアルな自動車の所有を望むオーナー予備軍に実用的な記号情報――あなたがお買いになりたいこのクルマを所有者の社会的イメージはこんな感じですよ――を与えるだけでなく、リアルな所有は望めないが記号としての消費を願望する社会層の需要にも応えるようになる。(中略)
 
こうして商品の記号情報を含めて伝える方向への舵切りは、当時の雑誌の台所事情を思えば間違っていたとは言えまい。しかし、それは時間が経つと効いてくるボディブローのようなものだった。
 
(1) 部数を上げるためにブランド車を取り上げる。
(2) ブランド車のブランドを神聖不可侵のものとして守るために、貧困層や反ブランド主義者を視野に入れたアイロニカルな言及はしない(なにしろブランド車を提供するメーカーは広告主でもあるし、広報車両を貸し出して誌面作りに協力してくれるお得意様でもある。お得意様を不快にさせるのは避けなくてはならない)。
 
(1)から(2)へ直結する構図の中に縛られ NAVIは身動きできなくなりつつなっていった。
 
変節したNAVIに見受けられたのは、簡単には手の届かない高嶺の花の女優をグラビアに掲げるピンアップ雑誌と同じ構図だ(ピンナップ雑誌には女性のスリーサイズを示し、その身体について具体的に記述する情報と、例えば嘘かマコトかは定かではないが、彼女の人となりをキャプションで書くスタイルのふた通りがある。女性グラビアにも「ハードのCG」と「ソフトのNAVI」の2つの方向性がありえるのは、ピンナップ雑誌と自動車雑誌の構造的な相同性を示している――)。

実際に、一時期の『NAVI』には女優を使ったピンナップページがありましたからね。

現在は宝島社の『スウィート』ように、「物販のツール」に特化した雑誌も出てきています。

出版不況どこ吹く風 宝島「スウィート」100万部超 : J-CASTニュース

不況のあおりで女性誌が軒並み部数を落とすなか、宝島社「スウィート(sweet)」最新号は100万部超を発行する。100万部超の女性ファッション誌は近年例がない。「出版社は企業で、雑誌は商品」と割り切り、マーケティングに力を入れる同社の戦略が成功しているようだ。

適者生存といいますが、雑誌の生き残りも大変ですね。

『NAVI』最終号は本日発売です。