管直人の勝負勘

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政権〈史・私・四〉観 特別座談会 エドワード・J・リンカーン×田中秀征 ×冨山和彦×藤原帰一 菅内閣退陣か、解散か、政界再編か 民主党“不信”の行き着く先|『週刊ダイヤモンド』特別レポート|ダイヤモンド・オンライン

田中 それ以上に問題なのは、菅氏は勝つと思ったときにはなんの準備もなく勝負に出る。その勝敗を読む判断そのものが間違ってしまうのだ。参議院選挙直前の消費税増税発言、所信表明演説でのTPP参加発言があまりに唐突だったのは、判断ミスからだ。そうした根本的、致命的な問題に世論が気づき始めた。
 
自民党政権なら、菅氏でも通用する。なぜなら、自民党にはたとえ老朽化しているとしても、基本的な政権基盤と政策の枠組みがあるからだ。だから、小泉氏のように、ちょっとだけ軌道修正すれば評価される。ところが、民主党政権の首相は、まったく軌道がないところを歩かなければいけない。能力的にはるかに優れていなければならず、はるかに強いメッセージで国の針路を示さなければいけない。(中略)
 
──尖閣諸島問題、北朝鮮砲撃問題と北東アジアでの緊張が高まり、外交手腕が問われる局面が続いた。
 
田中 報道では、北朝鮮の韓国砲撃を知った官邸は「神風が吹いた」と高揚したそうだ。その思惑は大きくはずれた。砲撃の第一報は午後2時過ぎ。私は北朝鮮非難、韓国に対する全面的支持、国際社会の結束への期待、というメッセージが、オバマ大統領より前に発せられるのを待った。ところが、午後5時過ぎに届いたメッセージは「情報収集と不測の事態への万全の備え」である。菅氏は戦争になると思ったのだ。これには大変失望した。菅氏と修羅場を共にしてきた私の、いつか致命的な判断ミスを犯すに違いないという不安が現実となってしまった。

ボロクソですね。 でも当っているように思います。

他にも名言が多数。

冨山 1年前、タスクフォースチームとして日本航空(JAL)問題にかかわっていた。時の首相の鳩山氏も、国家戦略室と企業再生支援機構担当の菅氏も当事者だった。正直にいえば、菅氏は割と臆病な人で、なんとか自分が泥をかぶらないように物事を運ぼうとしている印象を持った。鳩山氏も、自分の手が血で汚れることを恐れる。案の定、JAL問題では、全責任を国土交通相だった前原誠司外相にかぶせ、官邸は逃げた。
 
小泉政権時代には、その中核政策だった産業再生機構の中枢にいたが、小泉純一郎氏はマキャベリスティックな人だったが、少なくとも卑怯ではなく、逃げもしなかった。上司として一緒に仕事をしていて、土壇場でこいつはオレの後ろから弾を撃つのではないかとか、ハシゴをはずして逃げるのではないかという不安は、まったくなかった。民主党政権には常にその危うさを感じる。野党のときの逃げ癖が抜けないようにも思える。

自分もリーダーはマキャベリスティックにならざるを得ないと考えますが、それは自己保身のためではなくて集団の目的を達成するためです。

リンカーン TPPは昨年11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で大きな議題だったが、ここで日本政府が意思を決めることができなかったということをとても残念に思う。APECはそもそも1990年代中頃から大きな成果を収めることができない状態になっていた。APECにとって貿易・投資の拡大が目的である以上、TPPはAPECの最重要課題だったはずだ。
 
もっとも、民主党政権だけを責めるつもりはない。自民党政権然り、農業問題が日本政府の決定を阻んできて、もう20年以上になる。その間に農業生産のGDPに占める比率はどんどん低下し、農家の平均年齢が65歳に達するまでになってしまった。この問題は結局、農業が衰退するというかたちで事実上の決着を見ることになるのかもしれない。

これまでの農業政策が、産業競争力強化の面ではまったくお門違いだったということは、自明だと思います。 TPPへの参加の是非は別として、このまま綱引きを続けていては後継者が消滅して農業という産業そのものがなくなるだろうということです。 ありそうな話ですね。

──昨年12月に閣議決定された来年度予算は、2年連続で税収を上回る新規国債発行を見込んでいる。財政悪化に歯止めがきかない。
 
冨山 消費税増税はもちろん、TPP参加すらおぼつかない、規制は強化の方向、と、やるぞと気炎を吐いても実際は反対向きに動いているという“ムーンウオーカー状態”のなか、最近の日本のグローバル企業の気分は、表向きは円高を含め、政府の無策を批判しながら、本音では政府に見切りをつけて、正々堂々と日本の外でカネ儲けさせてもらうと腹を決めている。社民党は否定するかもしれないが、日本企業はこれまでずいぶんと頑張って日本に雇用を残してきた。しかし、ここまで来れば、それを犠牲にしても恥ずかしくないという、ある種の免罪符をもらったという感覚が、この1年で急速に経営者に芽生えた。
 
繰り返せば、企業体としての経済合理性に忠実に行動できるということは、海外の成長をストレートに取り込むことを可能にし、企業業績は上向く。株価も上昇、大企業の従業員のボーナスも上昇する。その一方で国内に取り残された経済はどんどん衰退し、失業率は下がらず、国内で働いている人の所得も増えない。グローバル企業の納税は海外で行われるため、税収も増えない。したがって財政も改善しない。そのとき世の中の空気はどちらに引っ張られるか。

日本全体が「シャッター通り」商店街みたいになっていきそうな雰囲気です。
座して死を待つならそれもよし。 討って出て討ち死にするもよし。 日本人全員が考えなければならないことだと思います。