備えよ常に『生き残る判断 生き残れない行動』 ~災害時に人の動作は遅くなる:日経ビジネスオンライン
最も興味深かったのは、著者が「九死に一生を得た」要因は何かを多くの当時者に取材する過程で、最初につかんだ意外な事実だった。
それは、大災害に遭った直後の人々の反応は、総じてひどく「のろま」だということである。著者は書いている。
〈災害時には、ほぼ全員とまではいかないにしても比較的多くの人が、パニック状態とは正反対に目も耳も心も閉ざしてしまいがちである。そういう人たちは動作が鈍くなり、感覚が完全に失われているように見える〉
例えば、9・11テロで航空機が突っ込んだ時。ワールドトレードセンターにいた人々は、なぜか、いつもよりゆっくりとした行動を取り、我先に階段を下りて避難しようとしなかった。そのため、「2回目」の災害であるビル崩壊に飲み込まれてしまった人が多かったという。
著者の連邦政府への取材で明らかになったのは、生存者の少なくとも70%が退去しようとする前に、悠長にほかの人と言葉を交わしていたことだった。
コレ、すごくよく分かります。 3.11のとき、実際に自分の身にも起きましたから。
あの時は職場に居ましたが、すぐに尋常ではない大地震が(遠くで)起きたというのは分かりました。
揺れは大きかったものの、職場の建屋が崩壊する危険性はないだろうという意識はありましたが、本来ならすぐにヘルメットを被って避難行動を取らなければいけないのに、妙に現実感がなくて動きが鈍かったです。
つまり避難を最優先せず、余計なことをしていた。著者はこうした行動を「否認」と呼ぶ。否認の原因は、実は脳にある。被害に遭った時、多くの人の脳は最初、現実に起きたことを正確に把握することを拒否し、何も起きていないと思い込ませる傾向があるという。
心理学に「レイク・ウォビゴン効果」という用語がある。人は、自分だけは危険な目にあわないという傲慢な思い込みがあり、そのおかげで普段、危険なエリアでも生活できる半面、このような非常時では退避行動の立ち遅れを招いてしまうのだ。
一種の麻痺状態、催眠状態とも言える「否認」行動は、炎上している飛行機内や、沈没しかけている船内、また急に戦場と化した場所などでも、しばしば見られる。それは、甲殻類、両生類、鳥類、哺乳類など多くの動物が〈極度の恐怖にさらされると完全に活動を停止する強い本能を持っている〉のと同じで、人間もフリーズしてしまうのである。
このような状況でも生き延びるためには、ただ「正しい訓練」あるのみだということです。
ある社員は著者にこう述懐している。
〈「どこへ行くべきか知っているのは何より重要だった。なぜなら、脳はまさに機能停止してしまったからだ。ことが起きたとき、次に何をすべきか知っておく必要があるのだ。絶対にしたくないことの一つは、災害時に考えなければならないということだ」〉(中略)
9・11の教訓を安易に、3・11にあてはめることはできない。しかし、確実に言えるのは綿密な避難法を周知することと、日頃の訓練・シミュレーションの重要性だろう。いくら多忙でも、それを定期的に実施し、非常時に「すぐ体が動く」状態にしなければならない。
今回の震災でも、マニュアル通りに避難場所に指定された低地の体育館に向かい、亡くなった方も多いと聞きます。 災害に応じて適切な避難訓練がされていないと、かえって被害を大きくするのですね。
最終的には「考えるな、感じるんだ」という危険予知の感覚が生死を分けるのかもしれません。