反射鏡:「てんでんこ」のジレンマとどう向き合うか=論説委員・青野由利 - 毎日jp(毎日新聞)
今月、東京都内の講演会で、鈴木さん、畑村さんと、群馬大大学院教授の片田敏孝さんが経験を語った。片田さんは岩手県釜石市で教職員らと「すぐ逃げる」ための津波防災教育を進めてきた専門家だ。今回の大津波で、釜石市の小中学生約3000人のほとんどが無事だった。背景にこの防災教育があったと注目されている。
片田さんが子どもたちに伝えてきた「避難の3原則」は、「想定にとらわれるな(ハザードマップを信じるな)」「最善を尽くせ」「率先避難者たれ」。
実際に、釜石東中学校では学校が浸水想定の区域外にあるのに地震直後に避難を始めた。中学生が逃げるのを見て、高齢者や近くの鵜住居小学校で3階に避難しかけていた小学生もいっしょに逃げた。決めてあった最初の避難場所が危ないと感じた中学生の言葉で、さらに高台へ。結果的に、最初の避難場所は流され、小学校は屋上を越える大津波に襲われたという。
「避難の3原則」が功を奏したわけだが、それだけではない。片田さんの話で特に印象に残ったのは、防災教育の最後に子どもたちに伝えた言葉だ。
「うちに帰ったら、『僕たちはぜったいに逃げる。だからお母さんも逃げて』と何度も言って」。保護者には、「子どもたちが『お母さん逃げて』と一生懸命言うだろう。その願いをしっかり受け止め、うちの子は絶対逃げるという確信を持つまで話し合って」と伝えた。
これを聞いて、「津波てんでんこ」の持つ本来の意味が、鮮やかに浮かんだ。一人一人が勝手に逃げるというだけの話ではない。家族同士の信頼のもとに、主体的に自分の命を守るという重要な哲学が潜んでいる。
これは先日の「記者の目」に対するアンサーですね。
記者の目:「津波てんでんこ」の教訓=石塚孝志 - 毎日jp(毎日新聞)
「てんでんこ」は「てんでんばらばらに」を意味する方言だ。地震が起きたら、親や子にも構わず、ひたすら高い所へ逃げろということだ。(中略)
今回の震災でも、寝たきりの人を助け出そうとして男性3人が津波に流されたし、老人ホームからお年寄りを助けようとした女性が流され、小さな子どもたちが遺児になったというような話が各地にある。「てんでんこ」が、どれだけ難しいかということだ。
東京大地震研究所の大木聖子助教(地震学)は、「津波てんでんこ」の意義をこう解釈する。各自がてんでに逃げることで、自分で命を守る。その様子を見た周りの人たちも、非常事態を知ることができる。そして「『津波てんでんこなのだからしょうがなかった』と、生き残った人を責めない、またその人の自責の念を少しでも軽くできる、悲しい教えでもある」。東京大の田中淳教授(避難行動)も「津波てんでんこは(他人を思いやる)本来の人間性に反し、簡単には取れない行動だから、あえて伝えられてきたのではないか」と指摘する。
「てんでんこ」は「自分が助かることだけ考えろ」と捉えやすいですが、本当は「自分の身は自分で守るから、あなたはあなたが助かることだけを考えて」ということだったんですね。