急接近:エマニュエル・トッドさん 「アラブの春」を予言、背景と見通しは? - 毎日jp(毎日新聞)
--「文明の接近」(藤原書店、石崎晴己訳)で「アラブの春」の到来を予言し、16日に邦訳が刊行された「アラブ革命はなぜ起きたか」(同)で予言に至る分析を説明されています。ソ連の崩壊、米国の衰退に続く「第3の予言」の的中です。どうやって先を読んだのですか。
◆ 手法はソ連崩壊の場合と同じです。当時、ソ連の人々は共産主義体制に抵抗できないと言われていましたが、出生率(女性1人が一生に産む子供の平均数を示す合計特殊出生率)が低下していました。「子供の数を少なくしよう」と個人主義的になっていたのです。やがて政治分野でも個人主義的になるだろうと予測したのです。
アラブ諸国でも出生率の低下傾向が出ていましたので、変革があるだろうと考えました。政変前のチュニジアでは出生率が2に下がっていました。識字率も革命時のフランスや英国、ロシアをしのぎ、若者世代では90%以上です。ただし、いとこ同士で結婚する内婚率が高い(保守的な)家族の型が民主化にブレーキをかけているとみなしていました。チュニジアで事態が平和的に推移したのは独裁下でも近代化が進行していたからかもしれません。
エジプトの識字率はチュニジアよりも下で、出生率は2・9ですが、他のアラブ諸国に比べて内婚率が低いのです。サウジアラビアでは内婚率が35%に達しているが、エジプトはわずか15%です。エジプトの政情安定には時間がかかるでしょうが、市民社会は逆戻りできない変容を遂げています。内婚率の低下はいずれアラブ世界全体に波及するでしょう。
実に面白い記事です。
なんでそんなことが分かるんでしょうか?
--なぜ、識字率や出生率、結婚による家族の型が政治体制に影響を及ぼすのですか。
◆ 識字率が50%を超すと、「両親は読み書きができないが、子供はできる」状況が生まれます。(親子間の)権威関係が揺らぎ、読み書きできる人はイデオロギー面で活動的になります。女性の識字率が上昇することが出生率低下の条件となります。出生率が低下すると、男女関係がより平等な形へと変化し、流動的な社会になります。
イランでは(1979年の)イスラム革命前に識字率が50%を超えていました。民主化の第1段階だったのです。イランの出生率は2。出生率が低い国で信仰心が強い場合はまれです。おそらくイラン人はそれほど信仰心が強くないのではないでしょうか。信仰心の落ち込みに続くのはたいてい愛国心です。イランはイスラム主義の段階でなく、むしろナショナリズムの段階にあると思います。
家族の型も政治に反映します。英国の家族は極めて個人主義的で、子供は平等ではありません。それが、英国政治のリベラルな伝統の基盤です。英国的なものは「自由」であり、人々は「平等」にはあまり関心がありません。一方、フランス的なものは「自由」と「平等」です。(中略)
--民主化の動きは世界全体に波及しますか。
◆ 民主主義は世界にほぼ行き渡ることになるでしょう。中国では共産党が権力を握っていますが、識字率、教育水準が高い。政府が出生率を低下させる政策を取っていますが、多くの場合、あまり子供を産まないのは中国の人々自らの意思でもあります。中国は、独裁下で近代化が進んでいた政変前のチュニジアのようにも映ります。
ただし、各国が民主主義に至るには移行期があり、それが暴力的である場合もあります。内戦が起きれば、人々は「後退」とみなしますが、内戦は識字率が高まったところで起きます。コートジボワールはほとんど内戦状態ですが、進んだ国です。ルワンダは虐殺の舞台となりましたが、農民は生産性が高く、ドイツに似ているところもあります。アフリカは移行期危機の始まりの段階だと思います。
これを当てはめると、日本や北朝鮮、ミャンマーがどうなるのか聞いてみたいですね。