毎度で恐縮だが、筆者は欧州の周辺国債務危機は、「アリとキリギリス」の寓話で説明できると考えてきた。これについては以前の拙文をご覧いただくしかないが、カギは「アリとキリギリス」の話を読んでも、誰も遊んでいたキリギリス(ギリシャ)に同情しないし、食べ物を分けることを断ったアリ(ドイツ)を薄情だとは思わないということにある。
ユーロ圏で起こった借りすぎ問題は、借りた人、国が悪いのであって、問題解決は「当然」借りすぎた側の負担において図られるべきだと、普通の人なら考えるであろう。この常識は非常に根強い。そして通常はこの「常識」は全く正当なものである。ところが、個々の人、国が「正しい」ことを行った結果は、前述のように全く悲惨なもので、「合成の誤謬」と呼ばれる。
例えば、景気が悪くなりそうであれば、何をすべきであろうか。消費を抑えて貯蓄に励み、困難に備えるべきである。だが、すべての人が「合理的」なことを行うと何が起こるか。合成の誤謬によって、本当に景気が悪くなるのである。そこで、政府が支出を拡大するという普通の人から見ると「非常識」な行動をすることで、人々の期待を変えることができれば、景気の悪化は回避できる。
寓話なら「北風と太陽」を持ち出すべきではないかと思いますけどね。
この話は以前にも取り上げましたけど、実際に利害関係者を納得させるのは難しいと思います。
今のユーロ圏のリーダーたちに求められているのも、「アリとキリギリス」の寓話の「常識」を超えた「非常識」である。「常識」を克服して、ギリシャの所得を伸ばす手助けができれば、返済可能性の改善、金融システムの安定化と好循環の展望が開けよう。「三方一両損」を説いて、事態を丸く収めた“大岡越前”のような政治的リーダーシップが求められる。
問題を解決する「非常識」は、2つある。第1は、財政統合を行い、ユーロ圏共通債を参加国の連帯保証によって発行することだ。あるいは、問題を抱えた国の債務返済可能性が回復するまで、長期に渡ってドイツなど経常黒字国側に信用リスクを無条件に移転する。周辺国は景気刺激のためのファイナンスが可能となり、債務返済可能性を回復できる。
そこまでしてユーロを維持するべきなのかどうかが問われるでしょうね。