「A-class」の不運と誤算 - クルマ - Tech-On!
少し旧聞に属する話題ですが、2012年3月に開催された「ジュネーブモーターショー」で驚いた車両があります。それが、ドイツDaimler社が全面改良するMercedes-Benzブランドの小型車「A-class」(Tech-On!関連記事)。今回で3代目になりますが、最大の特徴である「サンドイッチ構造」をなくしました。その姿に、私は少し寂しさを覚えました。(中略)
1998年に発売された初代A-classを初めて見たとき、私はその構造の狙いを知ってとても感心しました。無駄なものをそぎ落とすのが当たり前の小型量産車に、その当時では普及するかどうか全く分からないEVの派生車を想定するのはなかなかできることではありません。なんというか、志の高さを感じました。
実は3代目Aクラス発表時に記事にしようかと考えていたのですが、誰も気にしていないだろうとボツにしたのでした。
初代Aクラスが出たとき、自動車雑誌はみな大絶賛してましたよね。 EVを見据えた高床式フロアしかり、衝突時に下に落下して潜り込むことでクラッシャブルゾーンを確保するエンジンしかり。
ただ、残念ながら初代A-classと、その考えを踏襲した2代目の売れ行きが良いとは言えませんでした。サンドイッチ構造の考えが失敗したとは思いません。不運と誤算が重なりました。(中略)
そしてDaimler社の誤算も重なります。A-classを発売したころ、同社はもう少し早くEVの時代が来るとみていたはずです。ところが初代が出てから10年以上経ちましたが、EVが普及し始めたと言える状況にはまだ遠い。サンドイッチ構造を存分に生かせる機会はなかなか来そうにありません。
その上、成長する世界の小型車市場の中でA-classの売れ行きが鈍いことがDaimler社の足を大きく引っ張ります。同社のMercedesブランドの車両は昨年、高級車市場でドイツAudi社に抜かれて3位に転落しました。一方で、最大のライバルと言えるドイツBMW社はスポーツ性をウリにした車高の低い小型車「1シリーズ」で着々と販売台数を増やしています。
結局、Daimler社は次期A-classでサンドイッチ構造の採用をあきらめました。そして1シリーズの後を追うかのように全長を伸ばして車高を低くし、「スポーツ性」(Daimler社)を強調する形にします。さらに「EVといった派生車を考慮しない」(同社)方針も掲げます。初代から続いた考えを完全に覆した格好です。
それが3代目のAクラスときたら、「1シリーズ」の生き写しになっていて笑ってしまいました。 あの「志」はどこへ行ったんでしょうかね?
自動車会社としては売れなきゃ話になりません。 心ならずも方向転換しなければならないときもあるでしょう。
でもあれだけ讃えた自動車雑誌は、Daimlerの「変節」を見て見ぬふりをするだけでした。 「早すぎた」のか「失敗だった」のか、きちんと再評価をすべきではないでしょうか?
という思いでいたので、この記事にはちょっと溜飲が下がりました。