30キロ圏外は大きな話題にはならなかった。たとえば23日午後、官房長官の枝野幸男はこう発言する。
「30キロ圏外の一部においても年100ミリシーベルト以上となりうるケースも見られますが、現時点で直ちに避難や屋内退避をしなければならない状況とは分析しておりません」
30キロ圏外の高線量地域で、住民が住み続けていたのが33キロ地点の長泥だった。23日昼の放射線値は毎時35マイクロシーベルト。年100ミリを突破する可能性があったが、一貫して国は大丈夫としかいわなかった。
枝野の発言が変わるのは3月末。飯舘村の土壌から高い値の放射性物質が検出されたことを受け、31日午前に「避難指示もありうる」との見方を示した。4月22日、国は飯舘などを計画的避難区域とし、5月末までに避難しなさいと指示する。
最も線量が高い時期に大丈夫だと言っておきながら、1カ月以上たったあとに避難指示を出し、その1カ月後までに避難させる。さらにそれから1年以上もたったこの7月、線量の高さを理由に長泥はバリケードで封鎖された。なぜ今になって、という思いを持つ住民は多い。
今頃になって誰が悪いとか言っても仕方ないんですが、事故直後に自主避難する人達を「過剰反応だ」「パニックになるな」と言ってた連中は、本当にタチが悪いと思います。
ただ、チェルノブイリの例でも行政側は「国民の健康が第一」ではなく「国民の統制が第一」に動くので、そこは国民の側が政府やメディアの話を鵜呑みにしないで、自分のアタマで判断するしかないように思います。
4月25日、飯舘村の仮役場がある福島市飯野町で長泥への説明会が開かれた。ある住民はこう質問した。
「直ちに影響はないっていうのを私ら信用したんですよね。影響はないっていうから私ら牛を売るまでいた。今さら立ち入り禁止になるとは思っていなくて、なんで今さらって。情けないというか……」
原子力災害対策本部の審議官、富田健介(とみた・けんすけ)は「情報提供のあり方について多々問題があったことは申し訳ないと思っている」とした上で、「バリケードは他の市町村でも等しくお願いしている」と釈明した。
終了後、富田に「なぜ今封鎖?」と問うと、いらだった顔を見せた。
「だからあ、そんなことは分かってる、分かった上でいってるわけですよ。だけど飯舘だけ例外にできないわけですよ。公平性って大事なんじゃないですか?」
いま問われているのは、公平性ではないと思うのですけどね。
「なんで今さら。情けない」という言葉を、もっと噛みしめた方がいいですよ。