普通の人が普通の道を走ったときの気持ちよさ

マツダ・ロードスターS/ロードスターSレザーパッケージ/ロードスターSスペシャルパッケージ【短評】 | webCG

そうであるなら、ワインディングでの所作にも納得がいく。相対的に早くこなれたであろうフロントサスペンション(ダブルウィッシュボーン)に対して、リアサスペンションが伸びるスピードは遅いから、ハンドルを切ると余計にフロントが“くてん”と沈んでしまうのだ。だから、そこそこのペースで走ると、「一本背負い」をかけられたような感じになる。フロントのロールスピードを速く感じて、切り返しでは少し怖い。リアが滑らないから安全といえば安全? それは違う。前後の自然なロール感があってこそ、「人馬一体」感は達成される。あらためてリアメンバーブッシュとダンパーがこなれたSに乗ってみたいと思った。
 
でも、ジャーナリストの悲しいサガか、担当氏の説明に対しては「本当にそうなのぉ?」とも思ってしまう。というのも、これまでに乗ったマツダ車は「デミオ」も「CX-3」も「CX-5」も「アテンザ」も、ここで試乗したSと同じ方向性だったからだ。一貫性があるという意味では、筋が通っている。また、スカイアクティブ世代以前の「テールハッピーなマツダ時代」からの脱却意識が、リアのスタビリティーを高くさせているのではないかとも。
 
確かに、こうしたフロント・スムーズ/リア・ステイブルなハンドリングは、常用域ではとても気持ちが良い。ハンドルを切ればクルマはスイスイ曲がってくれる。そして乗り心地も素晴らしい。ダンパーのしなやかさ以外にも、フロントロワアームのボディー側ブッシュに工夫を凝らすことで、路面の段差による突き上げを、それはそれはみごとに吸収しているからだ。

絶妙なバランスを狙っているのだろうけど、「絶妙な」ところがピンポイントだったりするのかな? 経年劣化で変わっていく車両のコンディションを考えると、実際にユーザーがそれを味わえる「賞味期限」(あるいは旬)は短いのかもしれませんね。

【ロードスター開発者への10の質問】Q3.人馬一体はどう進化したのか? | レスポンス

----:よく我々の間では「虫谷流」じゃないですけど、独自の理論と哲学をお持ちと聞きます。「人馬一体」に繋がるその理論はどこから来たのでしょうか。
 
虫谷:NB(2代目)では信頼性を担当していて、操縦安定性に関して最初に手がけたのは『タイタン・ダッシュ』というトラックでした。構造的にも凄く不安定になりがちなクルマで、ロール高とか重心高とかが高くなるので、足を固めたり、普通考えますよね。ロールが大きくなったらそれを止める。ただ、ロードスターの感覚が染みついているので、ロール? いいじゃん、別に、って(笑)。
 
---:ロードスターはそうではなかった?
 
虫谷:ロールしようとしている車を、逆に止めたらまずいわけです。クルマを行きたい方向に行かせる。逆に人間の感覚に合わない感覚でロールすると、やっぱり危ないですし。もちろん耐転覆とかスピンするかしないかとかは当然ケアをしながら、ある程度のロールを許容しながらやっていました。一方でその当時社内では、ロールが大きいのは悪だ、みたいのがあったわけです。一方、俯瞰して見てもらうと、ロードスターって結構ロールするじゃないですか、ということになる。
 
----:その頃はロールを抑えるクルマが全盛だったわけですね。
 
虫谷:そう、シュンシュン動くようなクルマが多かったです。でもそれは違うだろうと。「人馬一体」っていうのはクルマがロールする量と同じように人間もロールするという感覚。つまり人間とクルマの感覚が一体にあるのがベースですよね、と。でも一般的にはそうはなっていなかった。

ドライバーは意図して操舵した結果としてロールを許容すると思うのですが、同乗者はそうではないと思うんですよね。 振り回されるというか、揺さぶられる感じが強く出るのかなと。
マツダは「Be a driver」だからそれでいいんだということなんでしょうが、2座のスポーツカーと乗用車を一緒にするのはどうかと思うけど。

虫谷:動いている、ということは一歩間違えると不安定なのですが、これを両立しているんです。一方で「安定させる」というのがベースになっているのは、ドイツの車などです。安定性でいったら、彼らの車は安定しきってる感じですけど 「自分が操っている感覚」という見方でいうと…確かにいい車なんですよ。だけど乗せられているっていう感覚。やっぱり我々のDNAである「人馬一 体」というのは、車と1対1になることなのです。
 
これが難しいんです。難しいですけど、自分が失敗したら、あなた今失敗しましたよっていうメッセージが入る。今の車って、失敗しても制御でコントロールしてくれるじゃないですか。そうすると、本当にどっちが安全なのかというのがわかりにくい。そこでマツダは やっぱり人間中心、人間にプライオリティを置いて、人間がコントロールする幅を設けてやる、という方向性になる。そうすると、最終的には人間が安全装置になれるわけです。でも これ簡単に言いますけど、ロールをするとことを許容するっていうのは相当難しいんですよ。だって、ロール角を大きくすればするほど、普通は不安ですからね。不安にさせないようにするというのは、なかなか大変なんですよ。
 
----:そう考えると本当に、ロードスターの初代の感覚に近ということでしょうか。初代の主査であった平井さんが昔「君達に分かりやすく言うのならば、あえて限界低くしてるから」って。そうじゃないとどんどんいっちゃうから。っていう感覚に近いわけですよね。
 
虫谷:25年間続けられているのは、あの時のキープコンセプトなんですよ。その間に出てきた色んなクルマが今はなくなったということは…。

「遅いスポーツカー」というコンセプトをキープしているのはすごいと思います。