VWのディーゼル排ガス不正はこうして暴かれた

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:
  • ハッシュタグ:

独フォルクスワーゲンの排ガス不正-「ごまかし」はこうして暴かれた (Bloomberg) - Yahoo!ニュース BUSINESS

発覚に至る道は2013年に始まった。ディーゼルエンジンによる大気汚染を心配した欧州当局が、米国で販売された欧州車の路上走行での排ガス検査を望んだ。米国での路上検査の結果は欧州のものよりも試験場での検査結果に近いだろうと考えたからだ。ところがそうはならず、カリフォルニア州が調査に乗り出すことになった。最後には25人の技術者がほとんど専業で取り組んだ結果、VWが検査結果をごまかすためのソフトウエアを使っていることが発覚。このソフトは少なくとも1100万台の車に搭載されていた。

ワシントンとベルリン、サンフランシスコにオフィスを持つ非営利団体の国際クリーン交通委員会(ICCT)が欧州当局から排ガス検査の実施を委託された。ICCTは2013年の早い時期にウェストバージニア大学の代替燃料・エンジン・排ガスセンターで研究者らを雇用した。1989年から、エンジン排ガスと代替燃料の使用について研究している同センターが、VWのパサットとジェッタを含めた3車種のディーゼル乗用車を検査することになった。

同センターで研究する助教授のアービンド・ティルベンガダム氏は「最初からメーカーの不正を見つけようとしていたわけではない。何か違った発見をすることを期待して検査していただけだ」と話した。  パサットとジェッタに加えBMWの「X5」を使って13年3-5月にかけて試験したところ、VW車は試験場では排ガス規制の法的基準を満たすのに、路上では基準よりはるかに多くの窒素酸化物を排出することが分かった。センターは14年5月に研究結果を公表し、カリフォルニア州の大気資源委員会が調査を開始した。

報道では「規制値の40倍のNOxを出す」という話ですが、そんだけモード試験と乖離があれば問題になりますよね。

問題はVW側の対応です。

委員会の調査官らはVWの技術者たちと何カ月も会議を繰り返し、VWは同年12月に約50万台をリコール、それによって問題が解決すると伝えた。しかし委員会が再び検査すると、修理後も状況はほとんど変わっていなかった。委員会のスタッフはVWに答えを求め続けたが、VW側は検査の方法や検査機器の調整に問題があったと言うばかりだった。
 
しかし検査を何回やり直しても路上と試験場で結果が異なり、あまりの不可解さに調査官らは車のコンピューターに格納されているデータを調べ始めた。そして遂に、ハンドルの動きなどから排ガス検査中であるかどうかを識別するソフトウエアを発見。VWは09-15年にかけてこのソフトを、エンジンをコントロールするモジュールに組み込んでいたのだった。
 
さらに9回の会議で調査妨害を続けた揚げ句、VWの技術者は今年9月3日にとうとう、白状した。「われわれが集めた証拠とデータの蓄積の前に、彼らは文字通り言い訳の種が尽きた」と大気資源委員会のスタンリー・ヤング報道官が述べた。

これじゃ悪質と言われて高額な制裁金を課されても仕方がないような... 米国をナメているとしか思えません。 こういうところがVWが米国で販売を伸ばしてこれなかった一因なのかも。

VW不正、米大学の試験で発覚 基準超え検出を当局に通報  :日本経済新聞

米メディアによると、昨年5月に通報を受けたEPAはVWの調査を開始。VWの説明にEPAは納得せず「2016年発売の新型車を認証しない」と通告。この結果、VWは不正ソフトの搭載を認めたという。

もう逃げ切れないというところまで追い詰められてようやく認めたようです。 往生際が悪いね。

VWディーゼル不正の概要判明 | 自動車評論家 国沢光宏

VWのディーゼル不正問題のアウトラインが解ってきた。VW開発の排気ガス浄化システムはアメリカの厳しい規制値をクリア出来る性能を持っていたけれど、どうやら耐久性に自信を持てなかったようだ。アメリカの場合、新車時だけでなく約20万km走った時点でも(今はもっと伸びた)規制値をクリアしてないとならない。つまり性能保証しなければダメだとなっている。ここが難しい。
 
当時ホンダもアメリカでディーゼルを販売する計画を立てており、開発をすすめていた。けれど最後になって断念している。調べてみたら性能保証に自信を持てなかったそうな。なにしろ20万km走った後の性能をチェックするには、同じ距離を走らせなければならない。単純に100km/hで20万km走らせようとすれば、それだけで2000時間(83日間)掛かってしまう。
 
加減速を繰り返したり、安全マージンを見越したりすることなど考えれば猛急で試験しても半年かかる。不具合出たら対策部品開発してさらに半年。ホンダの場合、時間切れになった上、耐久性を確保出来なかったようだ。VWも同じような状況だったのかもしれない。そこで考えたのが、劣化速度の早いNOx触媒などの機能を落とすという方法。フルに機能を使わなければ長持ちする。

クルマのダッシュボードには「OBD-2コネクタ」というのがありますが、「On-Board Diagnostics」の略からも分かるように、元々は米CARBが排ガス浄化装置の使用過程での性能維持を保証させるために義務付けたものです。 日本なんかは新車のときはいいけれど、古くなるとスス出し放題のディーゼル車がありますが、米国は昔からPLMの観点で規制をしていたのですね。

日本でも3年前に尿素SCRトラックの使用過程車でNOxが規制値を大幅に上回るという話題が出てましたが、その後どうなったんでしょうね。

VWのディーゼル排ガス事件がこじ開けた巨大な闇:日経ビジネスオンライン

2014年11月、環境問題に取り組む非営利団体のICCT(International Council on Clean Transportation)は「REAL-WORLD EXHAUST EMISSIONS FROM MODERN DIESEL CARS」と題するレポートを発表した。 このレポートは、完成車メーカー6社の15車種のディーゼル乗用車にポータブルタイプの排ガス試験装置を搭載し、実際の道路上を走行させて有害物質の排出量を測定したもの。驚いたことに、欧州の最新の排ガス基準である「ユーロ6」のNOx排出基準を満たしていたのは15車種中わずか1車種で、他の車種はすべて、ユーロ6どころか、その前の基準である「ユーロ5」の基準値すら超えていたのである。そのうちの2車種はユーロ6の基準値の20倍以上を排出していた。
 
実は、今回のVWの事件に限らず、実走行時の排ガスに含まれる有害物質が排ガス基準値を超えているというのは、自動車関係者にとっては半ば「常識」である。排ガスに含まれる有害物質が基準値に収まっているかどうかを試験するモードには、例えば坂道は含まれていないし、日本の測定基準でいえば時速80km以上の速度領域も含まれていない。また2名乗車時を想定して測定しているので、それ以上の人員が乗れば、エンジンにはそれだけ負担がかかる。試験時の測定モードは、加速度なども決まっているが、実走行時には、それ以上にアクセルを踏み込むことも当然あり得る。(中略)
 
排ガス測定試験の条件に外れた領域での有害物質の排出状況がどうなっているのかについては、ある意味メーカーの良識に任されている部分がある。例えば日本でも、いすゞ自動車のディーゼルトラックで、ディーゼルトラックの排ガス測定モードである「JE05モード」での走行では、特にNOx排出量に異常が見られなかったにもかかわらず、時速60kmの定常走行で測定開始240秒後にNOx排出濃度が約4倍に上昇、さらにJE05モードの規定よりも急加速した場合にNOx排出量が急増し、その後定速走行に移ってもNOxの排出量が高いまま下がらない、というような現象が東京都の試験で発覚した。その後日本でも自動車工業会がディフィート・デバイスを禁止するガイドラインを設定するなど対応に追われたことがある。

あらゆる走行条件でパーフェクトな環境性能を達成するのは不可能です。 現代の自動車エンジンはフィードバック制御やモデルベース開発で「特定の条件下で達成」するように作られています。
とはいえ同一の制御モードで「特定の条件」を外れた結果として規制値をオーバーするのは仕方ありませんが、意図して制御モードを変えて有害物質を多く排出するというのは、やはり言い訳できないと思いますね。

日本でも販売台数が10万台を突破して無視できないボリュームになった訳ですから、実走行時のクリーンディーゼルが本当に「クリーン」かどうかを検証してもらいたいと思いますね。


ところでこんな記事も。

フォルクスワーゲンで何があったのか? 排ガス「不正」の背後に見え隠れする熾烈な権力闘争 ドイツ全土が揺れている (現代ビジネス) - Yahoo!ニュース BUSINESS

2002年からは監査役会会長となっていたピエヒ氏だが、いずれにしても、VWはもちろん、ドイツの自動車界では帝王のような存在だった。その帝王が権力闘争に巻き込まれ、週刊誌を賑わした挙句、無残に追い落とされた。
 
ただ、不思議だったのは、闘争の本当の原因が最後まで分からなかったことだ。アメリカ市場での失敗、配当の減少、ヴィンターコーン氏の経営手腕に疑問を呈する意見もあれば、ピエヒ氏の独裁が問題ではないかという記事もあった。(中略)
 
ひょっとすると、4月の権力闘争は、本当はこの不正を巡ってのものだったのかもしれないと私は考える。情報はすでにあったのではないか。どうにかして対処しなくてはならないが、社外に漏らすことは許されない。そして、それは実際に漏れなかった。そう考えれば、どの記事を読んでも訳が分からなかった謎は解ける。

去年からEPAの指摘を受けているというのは、当然ですが監査役会にも報告されていたはずですから、ピエヒ元会長も知っていたはずです。
個人的にはこの件が権力闘争に直接関係しているとは思いませんが、会社がおかしくなるときはいろんなことが同時多発的に起きるんですよね。