なぜスズキは副社長の首を切らなければならなかったのか?

スズキの走行抵抗値捏造は“吝嗇文化”の行き過ぎか - 日経テクノロジーオンライン

そしてスズキはその後の会見で次のように言葉を変遷させました。「あるモデルの複数類型を同時に型式認定申請する際に、そのうちの1つの代表車で惰行法による走行抵抗を測定した。他の類型車種については、自動車を構成する部品単体の抵抗値で代表車の惰行法による走行抵抗値を補正したデータを提出することによって、惰行法テストを省略した」。
 
これはつまり、スズキは最初から「積み上げ法は惰行法の代わりにはなり得ない」ことを知っていたということです。スズキはマスコミすらだます悪質な方便を用いたのです。
 
さらに、自分たちの正当性を補完するために「欧州では、代表車の惰行法データを部品単体抵抗値で補正するこの方法が認められている」と説明しました。確かにこの「欧州法」ならば、代表車の惰行法を基にある程度の精度で補正できるでしょう。だからスズキが言うように、「社員に燃費不正の意図はなかった」というのはその通りだろうし、「全ての車種の燃費について、惰行法と欧州法の間に大差はなかった」という報告結果はうなずけます(スズキは「全ての車種の走行抵抗値設定を欧州法から正規の惰行法に切り替えたところカタログ燃費は良くなった」と報告したがこの期に及んでえげつない。それ自体が、厳密には欧州法が惰行法の代わりにはなり得ないことを語っている)。

「三菱自に比べてスズキは悪質ではない」と印象付けたかったのでしょうが、国交省からしてみたら「法令違反をしておきながら、なんだその態度は!」と激怒したんじゃないかと思います。

燃費不正問題で「ネット美談」が広がったスズキ、会長は引責 何が起こった? (BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース

ネットで称賛の声が巻き起こったのは、スズキが、国の規定する方法で燃費を測定し直したところ「カタログ値を上回る結果が出た」と国土交通省に報告したことがきっかけだ。
 
先に不正が発覚した三菱自動車と異なり、スズキの不正は、燃費が良いように見せかけるためのものではなかった。ここから、「これを不正というの?」という反応が広がった。
 
そんな中で、こんなツイートが流れた。
 
“スズキの不正計測では規定重量の3倍になる180キロの荷物を載せて行っていた模様。
社長「車は1人だけでなく家族で乗るものだから実は三人で計測してた」”
 
この「美談」は、1万件以上リツイートされ、これに連動するように、スズキを賞賛するコメントはさらに増えた。

こんなの信じる人がいんの? ありえないよね。

ところで

実は日本では、測定条件が安定している風洞試験室内における空気抵抗値とシャシーダイナモメーター(台上試験装置)上での転がり抵抗値をそれぞれ個別に測定し、それらを足し合わせて走行抵抗値とする方法(「ベンチ法」という)が認められています*。そのため、一部のメーカーはベンチ法を採用して型式認証受験を行っています。

これは知らなかったです。 ベンチ法みたいなことがなぜ出来ないんだろう?と思ってましたが、ちゃんと法規で認められているんですね。

では、スズキはなぜベンチ法を採用しないで法規で認められていない欧州法を採用したのでしょうか。それは、ベンチ法を採用するためにはベンチ法と惰行法の間で多くの相関テストをしなければならないが、欧州法ならほとんど何も仕事をしなくて済むからでしょう。
 
正式の惰行法で測定した代表車のデータを見ながら、その他の類型車種の惰行法用の測定記録紙に、測定場所や惰行時間、風速、外気温、気圧、路面の状態などの架空のデータを、鉛筆をなめなめ書き込む(捏造する)。そうすれば類型車種については何の仕事もしなくて済むし、“必要悪”の認証受験を最少の経営資源で乗り切ることができる──。スズキの技術者はこう考えたのだと思います。(中略)
 
スズキの走行抵抗値不正の目的は、スズキ特有の“吝嗇文化”による「仕事の“端折(はしょ)り”」だと思います。「法の定めに従わなくても、結果が同じなら仕事を端折ってもいいではないか」と考えたものと思います。そしてそういう発想であれば、欧州法を実施する上で必要な派生車種の部品単体の抵抗値も全て捏造している可能性があります。提出の必要がある惰行法のデータは捏造する一方で、提出の必要がない部品単体の抵抗値だけは正しく測定して記録するということは考えにくい。部品単体の抵抗値は部品の仕様を見れば大体予想がつくし、欧州法は予想値でもある程度機能します。「嘘の上塗り」というよりも「化けの皮が剥がれ」つつあるような気がします。
 
もしも部品単体の抵抗値の測定すらしていなかったとしたら、国交省は「営業停止命令」を出して、「社員の人間としての尊厳を踏みにじる“行き過ぎた吝嗇文化”は損をする」ということを思い知らせる必要があります(国交省がそこまで踏み込んだ検査をできるかどうかは、はなはだ心もとないところですが)。

既にスズキには国交省の立入検査が行われていますが、”やましいところ”があったので(何も変わらないけど象徴的な意味として)修会長のCEO返上と、副社長のクビを差し出して恭順の意を示したのではないでしょうか?

国交省としても、本来は三菱自だけの「特殊な事例」で済ませたかったところに出てきたスズキの不正ですから、早く鎮火させたい思いはあるでしょう。
実際のところはどうだったのか詳細をはっきりさせないで、これで幕引きになるんじゃないかと思いますね。