「電気自動車で一発逆転」はあるか?

「電気自動車で一発逆転」はあるか?:日経ビジネスオンライン

藤本 電気自動車で一発逆転だ、みたいなことを言っていますが、当面はあり得ません。もちろんニッチマーケットはありますが、電気自動車が世界市場を支配することはない。これは単純な話で、電池の値段が高すぎるのです。
 
竹森 電池の値段と言いますと?
 
藤本 まともに走ろうと思うと、100キロ、200キロの航続距離が必要です。6月の初めに三菱自動車が電気自動車を出しましたが、これは、今一番良くできた電気自動車の一つで、非常に立派なことだと思います。レイアウトも良く、非常に良くできています。ただ、現実的な航続距離が100キロちょっとのバッテリーの値段が、たぶん小型車1台分ぐらいはあるでしょう。このようにバッテリーの値段が高くなるのは変動費部分のせいです。つまり材料費が高いわけです。高いエネルギー密度が要求されるバッテリーには、リチウム、ニッケルといった希少金属がどうしても入る。大量生産をすれば多少は値段が下がるでしょうが、変動費のところに壁があるので、一定以下には下がらないという可能性が高い。(中略)
 
ただし、電池を5分の1、10分の1の値段にする手は論理的に考えればそんなにはありません。もちろん世の中に驚くようなイノベーションが波状的に起こって、エネルギー密度のすごく高い電池がものすごく安い材料で作れるようになり、バッテリーの値段が10分の1になるというようなことが起これば、僕は「電気自動車で一発逆転はない」という発言を撤回します。だけど、今のところその兆候は全然見えてきません。少なくとも、それを前提に戦略を語ることはできません。

先日の記事の後編です。

EVに関しては全くその通りで、だからこそ日産の戦略は大胆だなぁと思う訳です。
今更ハイブリッドで追いかけても優位に立てないし、最終的にはEVになるのだからとショートカットしようとしているのでしょうが、時代より早すぎる戦略はうまくいきません。

トヨタについても語っています。

藤本 もう在庫調整はかなり進んだと思います。実は、自動車産業はそれほど非正規従業員比率が高かったわけではありません。2~3割です。その2~3割を契約解消して、今は日本の自動車生産現場は、ほぼ全員正社員でやっているという状態です。
 
在庫調整が終わって、前回ピークの7割ぐらいにまで生産が戻ってくれば、固定費負担は重いとしても、当面はやっていけるでしょう。実際に世界の自動車販売量が減ったと言っても、おそらく、全世界で7000万台に近づいていたものが、一度、6000万台ぐらいまで落ちるという話であり、大きく減ったのは高級車です。自動車に乗る人がいなくなるわけではありません。(中略)
 
トヨタが特にまずかったのは、造るべきではなかったトラック系の余計な工場を、周回遅れのタイミングで、アメリカに造ってしまったことです。これは戦略ミスで、工場が本格稼動する前にマーケットがつぶれてしまった。同じ過剰分でも、これは償却が全然終わっていない分です。償却が終わった工場なら生産能力が低くても、財務上はそんなに大きな問題にはなりません。自動車工場の「生産能力」というのは、かなりあやふやな概念だと私は思っています。
 
結局、固定費の問題です。トヨタの場合、「生産能力が過剰」と言うより、固定費を回収できない工場をかかえてしまったという意味でのミスが大きいような気がします。

労務費は需要にアジャストできても、設備償却費の負担はまだまだ続きます。 それに利幅が大きかったレクサスの市場がなくなってしまったのは、かなりの痛手でしょう。

藤本 トヨタはこれを円高ショックの1993年ごろから、「バブルのあか落とし運動」とか言って続けました。彼らの言う数字では(これは部品メーカーを泣かせることも含めてでしょうが)、年間1000億円ずつ削減しました。これを10年間ずっとやったのです。
 
そして、10年後の2002年にトヨタは1兆円の利益を出しました。ところが片方でデータを見ると、今言ったように、年間1000億円はバリューエンジニアリング、あるいはバリューアナリシスでコストを下げましたと言っている。
 
僕はトヨタさんの本社の幹部に言いました。設計が頑張って、1000億円×10年で1兆円コストダウンしたのに、利益が1兆円ということは、本社の人たちは何をやっていたんですか、ほとんどこれは現場の頑張りじゃないですかと。そうしたら、本社の人は、「お前には言われたくないけど、その通りだ」という言い方をしていました。

分かっててわざと極端に言っているんでしょうが、これは間違っています。
10年前と今のクルマの装備仕様を比べてみればいい。 両席SRSエアバッグは当たり前で、サイドエアバッグやSCABも標準装備になってる。 ABSどころかESPも標準になってきました。 普通のクルマでもULEVだし、燃費も良くなってます。
一方で、原材料コストは上がっています。 売価も上げてはいますが、機能を上げた分をコストダウンで吸収しているんです。