新卒時における就活の成否はその後どの程度影響を及ぼすでしょうか。景気が悪いと就職率が低下することからも解るように、同じ能力であっても、景気が良ければ正社員になれたはずが、景気が悪化したことにより正社員になれない確率が高まります。筆者らの共同研究によると、新卒時にマクロ経済情勢の悪化により正社員になれなかった場合、その影響はその後徐々に減衰していくものの、10年程度持続するという結果を得ました(図4)(※)。
つまり、新卒時に正社員になれなかった人のマクロ経済情勢要因による影響は、10年間程度その人が正社員になることに対し不利に働くということです。ここではこのような効果(新卒時に正社員につけたか否かについての新卒時のマクロ経済情勢要因がその後の就業状態に及ぼす効果)を「初職効果」と呼ぶことにしましょう。(中略)
そこで、筆者らは、初職効果がその後数年の就職経路に依存するか否か、いわば新卒時の就職の成否は挽回可能かについて分析してみました。
すると、たとえ景気が悪く新卒時に正社員になれなくても、卒業後数年以内に一度でも正社員に就いた人は、その後正社員に就いているか否かが、新卒で正社員に就いた人と変わらなくなるという結果が得られました。つまり、たとえ新卒時に景気が悪く就職に失敗しても、その後の景気回復により卒業後3年程度で正社員に就くことができれば、挽回が可能になるということです。
一方で、新卒時に正社員であっても、その後3年以内に一度でも正社員でなくなってしまった人(短期間で正社員から離れてしまった人)は、新卒時正社員でかつその後3年間正社員を続けた人と比べ、初職効果のメリットは失われてしまうという結果となりました。
景気低迷が3年以上続くと、挽回できない若者が出てくるということですね。
昔は景気は循環するものでしたから、そんなに長い間低迷するなんてことがなかったのが、バブル崩壊以後はそれが通用しなくなりましたからね。 それに対して新卒重視の体制は変わらず、若者の就職に対するセーフティーネットが何もない状態に置かれていると。
運・不運の問題や、自助努力、自己責任を超えて、政府や企業としても対策が必要なのでしょう。
そういえば日曜日の毎日新聞に、こんな本が紹介されていました。
今週の本棚・本と人:『仕事漂流』 著者・稲泉連さん - 毎日jp(毎日新聞)
バブル崩壊後の「就職氷河期」のさなかに難関大学を卒業して官僚やバンカー、大手総合商社マンなど人もうらやむ職業に就きながら、数年でその座を自ら離れた8人を追った。若者たちの労働環境や、職業観の地殻変動を浮き彫りにしている。
やりたいことができない。先が見えてしまう。エリートたちは、たとえばそうした理由で辞める。上の世代からは「辛抱が足りない」との声も寄せられそうだ。だが「かつてはずっと勤めてがまんすれば得をするというモデル、イメージがありました。でも今は違う」。長く働けばいいことがあるとは限らない。右肩上がり、終身雇用制時代の労働観を現代の若者に押し付けるのは、無理があるのだ。
2001年に刊行した『僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由』(文藝春秋)では、組織で働くことをためらう同世代の若者たちを描いた。「では『いい大学からいい企業』というレールに乗った人たちがその後、どうしているのか知りたかった」。退職した人々を取り上げたのは「組織から出るとき、相当なエネルギーがいる。同時に新しいことを始めるエネルギーも。それを描くのが、『働くということ』をみる切り口になるのではないかと」。自身は大学在学中からライターの仕事をし、就職活動はしなかった。「会社の中での悩みも知りません。今回は、疑似体験しているような取材」だった。
悩みながらも自分の道を切り開いてゆく8人の姿は、読者に「自分はやりたい仕事をしているか」「何のために働くのか」という問いを突きつけてくる。
組織 vs 個人なんて60年代からある話で、今の若者に特有という訳ではないでしょう。
正社員になりたい人も、なりたくない人も、自分が生きたいように生きられればいいですね。