ユーロの自壊を防ぐ手立ては

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ユーロはこのまま自壊するのか:日経ビジネスオンライン

11月23日に放映されたNHKスペシャル「ユーロ危機 その時日本は」をご覧になっただろうか。
 
番組では、イタリア国債のCDS(credit default swap)を買ってイタリア国債の売りを仕掛け、国債価格の急落(利回り急騰)で儲けるヘッジファンドのマネージャーに密着取材していた。国債の急落で儲けた後、「次はどこかな、この先数カ月はこの手で儲けるチャンスに恵まれそうだ。サンキュー・イタリア!」とほくそ笑むヘッジファンドのマネージャーが印象的だった。(中略)
 
私はこの番組を見て強い既視感に襲われた。想起したのは2008年のリーマン・ショックではなく、1997~98年のアジア通貨危機だ。(中略)
 
タイバーツ売りの代わりにイタリア国債売りという違いを除けば、ヘッジファンドなど投機筋の売りを契機に始まった国債相場の下落が、国債を保有する欧州の金融機関に莫大な評価損を発生させ、信用収縮と危機が他国に伝染するという点では、全く共通している。

投機というのは、上がろうが下がろうが市場が大きく動く時がチャンスなので、善悪はないんですよね。

ではどうすればいいんでしょうか?

MBSと国債の大規模な買い切りを行って量的な金融緩和を行ったFRBとの違いがここにある。量的緩和に臆病と言われてきた日銀ですら、59兆円の国債保有残高がある(2010年末)。ちなみに日本では日銀の国債引き受けは法律で禁止されているが(財政法第5条、ただし例外規定もあり、実際に利用されている)、流通市場での購入については法律的な制約はない。
 
一方ECBの国債保有残高は339億ドル(約3.5兆円、2011年11月18日現在)に過ぎない。国債購入を禁じたECBのルールは、アンチ・インフレを伝統とするドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)からの継承だと言われている。その伝統は、中央銀行による国債引き受け(マネタイゼーション)がハイパーインフレの大禍をもたらした第1次大戦後のドイツのトラウマに起源がある。
 
要するにヘッジファンドなどの投機筋は、加盟国の国債価格暴落を阻止したくても、その手段をユーロ圏が自縛していることに乗じているのだ。中央銀行による国債購入は、平時、あるいはインフレ環境に対するルール(中銀の国債購入禁止)としてこそ合理性のあるものだ。ところがマイナスの需給ギャップが存在する現在の金融危機と不況下で教条的に固持されているのだ。並みの景気後退ならそれでかまわないが、今回の状況は「並み」ではない。(中略)
 
ユーロ圏が共通の財政規律ルールを再構築する必要があることは誰もが認めている。しかしそれには時間がかかる。何しろルール改正には17カ国全部が合意する必要があるのだから。それを待っていれば、国債価格の暴落で金融機関は自己資本が棄損し(金融機関は資産を圧縮せざるを得ないから)、信用収縮で実体経済は再び大不況となるだろう。最終的にユーロが自壊する瀬戸際まできていると思う。
 
中長期的な改革と同時に緊急の止血処置(国債価格の回復)が必要なのだ。それができるのはECBだけである。ECBの封印を破り、国債無制限購入を宣言、実行すれば、国債需給は逆転し、市場参加者の目先の不安は解消する。投機筋は売った国債のショートカバー(損切り買い戻し)を強いられるだろう。

ユーロ共通債の導入を待っていては遅すぎる。 ECBが国債無制限購入を宣言し、ちょっと実行するだけで状況に歯止めを掛けることは可能ということです。