高橋洋一氏が反論!「その消費増税論議、ちょっといいですか」:日経ビジネスオンライン
――日銀引き受けは、財政法の明文で禁止されているとのことですが。
高橋:そうだけれど、但し書きがあり、国会の議決を得た範囲ではできるのです。僕は理財局にいたとき毎年日銀引き受けを実施したし、官邸にいた時もやりました。2005年に23兆円分を引き受けた記録は誰も超えていません。だから2005年前後は日銀のマネー発行量が多い。増税なしで税収を増やすために、お金を刷ったからです。もちろんハイパーインフレになどならず、少し円安になっただけでした。(中略)
――ある経済学者の方はデータと共に、「2005年にたくさんマネーを刷ったけれど、デフレは止まらなかった」とおっしゃっていました。
高橋:それは、日本だけに限った過去との比較データでしょう。私が、お金を10%程度刷ったら6%のインフレになると言ったのは世界での話です。私は世界各国のマネーサプライなどの増減率と経済成長率の10年間平均も調べています。すると2000年代にお金を刷り、成長している国がたくさんある。一方、世界広しといえど、一番お金を刷らず、成長していないビリが日本です。私が「じゃぶじゃぶ」と言う根拠がないと言うのは、そのためです。
このblogでも何度も書いていますが、経済成長はともかく円安にするためにもっとお金を刷ってほしいですね。
昔の120円/$なんて水準に戻せという訳ではありませんが、やっぱり100円/$±5円くらいが妥当だと思うのです。
2005年に23兆円分の国債を日銀引き受けした時にされた批判は、円安による景気回復で、(輸出産業依存の)外需主導だというものでした。でも法人税収は上がった。この2005年をどう評価するかです。当時はバブルで、民主党が円安バブルでけしからんと言ったけれど、増税せずに財政再建できたのも事実です。
マクロ経済の観点からも、消費税増税をしなくても財政再建ができます。小泉政権から安倍政権までの間にプライマリー収支がマイナス28兆円からマイナス6兆円まで改善したけれど、その間に1回もまともな増税をしてないでしょう。今の民主党政府には不都合な事実でしょうけれどね。
円安にすると、輸出企業の業績が伸びて法人税収が上がる。輸入企業は少し不利になるけれど、GDP(国内総生産)は増える。どの程度円安にしたらどの程度GDPが増えるかもある程度分かりますよ。為替レートととても関係があるし、為替レートと税収も関係がある。
――税収にも関係があるのですか。
高橋:ありますよ。為替レートを安くすると輸出企業の収益が改善して税収が上がるということです。円安にするかしないかは、為替介入次第だと言う人が多いのだけれど、実は関係ない。
2月14日に日銀が金融緩和と「インフレ1%メド」を掲げた後の為替の動きを見れば、円安になんてすぐに出来るのが分かったでしょう。為替レートは、ベースマネーにおける米ドルの量と日本の円の量で決まるだけです。円の量を増やすと、円がドルの量より相対的に多くなって円安になる。日本の円を分母、米ドルの総量を分子にして割り算すると大体為替が分かる。ソロスチャートとも、マネタリーアプローチとも呼ばれている。簡単に計算できるように丸めた数字で言えば、中央銀行の資金供給量を比較すると、日本が今大体140兆円ぐらいで米国が2兆ドルぐらい。でこぼこがあるけど、大体140兆円と2兆ドルで割り算すると70円。
1ドルを100円程度にしたかったら140兆円のマネタリーベースを200兆円に増やせばいい。マネタリーベースの定義は日銀券+当座預金です。当座預金を入れないで計算する人もいますが。米ドルでも定義は同じです。これで半年から1年の間に、7割程度の確率で100円になる。この間の日銀の10兆円の資金供給枠も、2兆ドルで割り算すれば5円ぐらい動くでしょう。これを知らないで政権運営してはいけないぐらいの話だと思いますけれど、今の政権の人は知らないのでしょう。(中略)
FRB(米連邦準備理事会)のバーナンキ議長はそれを分かっているから、リーマン危機の時にお金をガシャーンと刷った。私はその時3年ぐらいで景気回復すると主張したけれど、実際に回復しました。こんな話は論争の対象でなく既に結果が出ていることです。日銀を擁護してきた人も、最近は黙るしかないんじゃないですか。
民主党政権じゃなかったら、こんなに円安を放置はしていなかったと思います。
――金融政策をきちんとすれば財政再建のための増税は必要がないということですか。
高橋:消費税をどう捉えるかという話になりますけれど、財政再建のために必要ですかと聞かれたら、もうちょっと違う手がありますと答えますね。未来永劫、消費税増税は必要ないのでしょうかと聞かれたら、それは為政者によるとしか言いようがないけれど。国民負担率を(増税の)理由に挙げる人がいるけれど、それは政府の規模をどの程度と考えるか次第だから、最後は国民の選択で決めることでしょう。
そもそも消費税は、普通の国では地方の一般財源です。だから分権化した後、地方の行政サービスを向上させるために地方の消費税率を上げますという話なら分かる。消費税を国の税金として社会保障に使おうとしているのがおかしい。社会保障の年金はほとんど国の業務ですが、消費税が国の税金なのか、地方の税金なのか一切議論をしないで話をしている。
このことを議論すると、社会保障目的税化が崩れてしまうでしょう。だから社会保障目的税化を前提とした議論しかなく、社会保障目的税化は消費税を国税として固定する前提でいる。そこが崩れてしまったら初めから議論が違うという話になるから、そこは財務省が主導する政府は絶対に触れない。
自分は15%くらいまで消費税が上がるのは仕方が無いかなと思っていますが、こういう風に言われると確かにおかしいよなと思いますね。
「他国では消費税率はもっと高い」という学者や政治家は多いですが、「そういう国では地方財源」というのはあまり言われていませんね。 都合が悪いからなんでしょうが。
どうして増税したいのかは、歳出規模を見るとすぐに分かります。自民党の時の歳出規模は大体83兆円でほぼ一定です。麻生政権の時だけリーマンショックで100兆円でした。民主党政権は予算を3回作って平均が大体94兆円。10兆円程度増えていますね。理由は簡単で、予算組み替えが出来なかったからです。自公政権の政策の上に自分の政策をまるまる乗せたからこうなった。増えた分だけを消費税増税でやろうと言っているのですよ。金額的に、ちょうどぴったんこでしょう。
予算の中身を見てもそう。予算組み替えをすれば総額は一緒のはず。民主党政権になった直後の予算編成で、シーリングを決めずに、予算組み替えをできる体制になっていなかった。組み替えをやるとマニフェストに書いてあるんだけどな。例えば子ども手当を新規要求するとなれば、子ども手当の関連予算を全部外さなければいけないのに、特殊法人経由の子ども手当関連の支出を残し、一方で直接給付で子ども手当を支給するから、二重の支出になった。
国の借金を返さなくてはならないのは確かだけど、そのためなら何をしてもいいという訳ではありません。
地方分権や政府の大きさを含めて、あるべき姿を考えるのが、本来の一体改革ではないのですか?