創業者の死と大企業病

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「沈まぬ帝国はない」 元アップル番記者の千里眼  :日本経済新聞

――具体的に大企業病だと感じるのはどんな部分から?
 
「今までにない規模のグローバルカンパニーになったにも関わらず、今でも自分たちをアメリカの、それもシリコンバレーの企業だとの認識しかない節がある。それが象徴でしょう。彼らは、感情などを交えないドライな「アメリカンウェー」と呼ばれるビジネススタイルを好みます。部品メーカーなどに対して、えげつないほどの自分たちのやり方を今でも押し通してしまっている」(中略)
 
「揺るぎない自信から、ライバルをライバルとして見ていない振る舞いもいかがかと感じます。彼らは米国のシリコンバレーの会社しかライバルと見なさず、韓国サムスン電子などの技術力を、何とも思っていない。確かにサムスンが起こすイノベーション(革新)はアップルに比べれば小さいものかもしれません。ただアップルとは違う形で間違いなく市場を動かしているのですが……」

そういう傲慢さが、帝国を支える市民たち(アップル信者)に歓迎されているんでしょうね。 「野蛮な異教徒(サムスン)どもは、ライオンに食い殺させてしまえ!」と叫んでいる市民ね。

他にも的を得た指摘がたくさんあります。

――とはいえ、世界中でブランド力はまだ健在ですよね。
 
「最近のアップルのもの作りをよく見てください。『薄くて』『軽くて』『美しくて』を連呼していますよね。それってまさに、巨大企業が新興企業の前に力を失ってしまうイノベーションのジレンマにはまり込んでいると言えませんか。なぜなら大半の消費者はもう、スマホの美しさなどに『グッド・イナフ』(おなかいっぱい)と感じて興味がないんですから。今求められているのは、フレキシビリティー(柔軟性)、パーソナライズ化(各個人に最適な)、バラエティー(多様性)などに移り変わってしまったにもかかわらずです」
 
「ある程度世界中で売れた製品はそこから先は、地域ごとの文化的特性を敏感に感じ取ってエリアごとに変えていかなければ受け入れられなくなると私は考えています。もの作りも広告戦略も、です。以前ペプシコのCEOが中国を訪れた際、現地の消費者がどう行動するかを肌で感じるため、すべての会議を地元のカフェで開くよう指示したんだとか。アップルの社員も、出張で黒塗りの車の中からただ外を眺めていては見えてこないことがたくさんあるはずです」

「iPhone」も5s/5cからバリエーションが増えましたが、いつまでワールドワイドで共通の商品で押し通せるのか興味深いです。

――では、もしジョブズ氏が生き続けていれば、大企業病の課題は解決できたのでしょうか。
 
「彼をもってしても難しかったんのではないでしょうか。ジョブズ氏には『現実歪曲(わいきょく)空間』と評される強力な説得力がありましたが、アップルが抱える大企業病までは解決できなかったでしょう。しかしながら帝国の栄華を維持する期間は間違いなく延ばせた。なぜなら創業者の存在だけが、企業の夢をみんなに説得力を持って語りかけ、その夢に向けて動き出すように仕向けられるからです」
 
「お金などの損得だけで割り切れない行動を起こせるのが創業者。ジョブズ氏は一度アップルを追放されていますが、そのときに自分が手塩にかけて育てたアップルが倒産しかけたのを外で目撃しています。どんなに成功した企業でも、あり得ないほどの大きな不幸が訪れるんだということを骨身にしみて痛感し、相当な精神的ダメージを負ったのではないでしょうか。だからこそジョブズ氏は復帰した後、株主に配当金を一度も支払わず、キャッシュを社内でためまくっていたのでしょう。昔の任天堂もそうでした」

その任天堂も山内氏が死去し、ジョブズの劣化コピーが社長に居座って、業績が悪化しているのは面白いですね。

――クックCEOはここに来て、米ビーツ・エレクトロニクスの買収や米IBMとの提携など、矢継ぎ早に大胆な決断を下しています。それは評価できるのではないでしょうか。
 
「ジョブズ氏の死後3年たって、ようやくクック氏が吹っ切れたんでしょうね。2つのニュースから、クック氏らしい新しいアップルを作り上げていこうという強い意志を感じました。個人向けも法人向けも両方やるごく普通の会社にアップルは変わりますが、クック氏は自分らしい経営に踏み出した。これまでのアップルは法人向けをやらずに“逃していた魚”が多かったですしどの道、大企業病のアップルは変わらなければならなかった。ただIBMとの提携はジョブズ氏が生きていたら、絶対に感情的に許すことがなかった決断でしょうね」

そのIBMとの提携ですが、「Googleやマイクロソフトに打撃」とかアホな論調もありますが、そんな大したディールではないし、むしろアップルにとっては害が大きいかもしれません。

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アップルのティム・クックCEOが発した「これ以上に互いを補い合える企業は他にないと思う」という言葉に表れているように、今回の提携は役割分担を明確にしている。モノはアップルが担当、ITとサービスはIBMだ。
 
この役割分担は、アップルの「稼ぐプロセス」の放棄を意味する。アップルはもともとモノづくり企業だったが、「価値づくりプロセス」も含めた「市場創出型企業」へ変化していったはずだ。にもかかわらず、今回の提携はハードで稼いだ利益でハードに投資をするモノづくりメーカーに、逆戻りすることになりかねないのだ。
 
この程度の課題は、当然アップルとしては想定の範囲内で提携に踏み切っているはずだ。たとえアップル関係者に筆者の疑問を投げかけたところで、「アップルの利益の源泉をIBMに引き渡す代わりに、IBMの法人販売網を得るのだから、それでいい」 というコメントが返ってくるだろう。確かに、苦戦しているB2B販売網を再構築するコストと時間を考えれば、トータルコストは安いだろう。(中略)
 
再び、「しかし」である!
 
経営数字などの結果の観点においてはごもっともである。短期的なアップルの収支を考えれば、提携は「イエス」である。しかし、その経営数字を生み出している、企業内プロセスや文化というアップルの本質の観点においては、筆者は強い危機感を感じる。(中略)
 
ティム・クックは、ジョブズ亡き後、アップルという巨大組織を存続発展させることを必死に考えてきたはずだ。ジョブズの存命中にも、幾度となく意見交換をしたはずだ。その上で、ジョブズ的なやり方ではなく「普通」になるという道を選んだのかもしれない。
 
しかし、筆者をはじめ、アップルファンはやはりそこに一抹の不安や寂しさを感じざるを得ない。「普通になる」という思想が背景にあるかもしれない今回の提携を、「脱!ジョブズ宣言」 と言っては過激すぎるだろうか。「アップルを普通の企業にする第一歩」「アップルがアップルでなくなった日」 と言っては、言い過ぎだろうか。

法人向け「サービス」はIBMがガッチリ握っているわけで、アップルは単なる事務機器製造業になる訳ですね。
そりゃ確かにジョブズは許さなかったでしょうね。

永く続く会社には、必ず「中興の祖」と呼ばれる経営者が出てくるものです。 アップルにそれが現れるかどうかがカギだと思います。