最低賃金を引き上げると、労働参加のハードルが上がる

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最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること。~アメリカが時給15ドルを実現出来る理由~(中嶋よしふみ) - 個人 - Yahoo!ニュース

今回のデモは労働者から搾取する企業にダメージを与えるべき、そのためには最低賃金を上げて金を吐き出させるべき、というおかしな意図が見え隠れする。労働の対価として給料がある、という原則をねじ曲げても「1500円分の働きが出来ない人は働き口を失う」という歪みが生じるだけだ。(中略)
 
そしてそんな状況では好きこのんでリスクを取って起業する人も出資する人もいなくなる。結果として雇用が失われる。最低賃金1500円の世界で起きることは弱者が雇用を失う、という状況だ。解雇や最低賃金は規制できても、雇用を強制することは出来ない。ここがデモの参加者も賛同者も根本的に勘違いしている部分だ。記事で紹介されているワカモノは時給が1500円ならばそもそも雇用されず、もっと酷い状況に陥っていただろう。彼が要求すべきは最低賃金アップではなく、社会保障の強化だ。

なるほどね。 そういうもんかもしれない。

そういえば先日こんな記事を読みました。

民主党は雇用政策のキホンすら知らないのか…安倍政権批判のつもりが、自らの経済オンチっぷりを露呈  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

労働力は、実質賃金に対して柔軟に対応しにくいので、ある実質賃金の状況の時、労働需要と労働供給に乖離が出て、労働需要(図中ではAの点)より労働供給が上回っているので、その差は失業になってしまう。
 
このとき、実質賃金をどのように変化させるかが、雇用政策のポイントになる。民主党政権時代は、安倍政権に比べて、実質賃金は低下しなかった。安倍政権と相対的にみれば、民主党政権時代のほうが実質賃金は高かった。これを図の中で示せば、AからBの点に向かったといえる。
 
11月30日付けの本コラム(「民主党と安倍政権、「労働者の味方」は安倍政権のほうだった!~雇用と最低賃金を比べてみれば一目瞭然」)で書いたように、民主党政権時代は、まず最低賃金の引き上げを図った。そのコラムでも示したが、そうなるとかえって失業は増える。
 
正しい政策は、まず、実質賃金を下げることだ。実際に名目賃金は労使間の交渉によって決まるので、実質賃金を下げるというのは、物価を引き上げることになるわけだ。ここに、金融政策が関係してくる。

言ってみれば、実質賃金を「シフトダウン」することでエンジンの回転数を上げて、その結果クルマの速度を高めるという感じでしょうか?
いきなりガバッとアクセル踏んでも、昔のキャブ車よろしく失速するだけなのかもしれません。

元の記事に戻ると、

これは以前「なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?」という記事でも書いたが、日本は一人あたりのGDPは世界中で27位と他の先進国と比べても非常に低く、貧乏な国になりつつある。これがどれくらい低いのかというと、数年前には財政破たん寸前と言われていたイタリアが28位、スペインが29位という状況だ。もう少しで財政破たん寸前の国に抜かれそう、と言えばどれだけ日本が酷い状況か分かるだろう。
 
日本は経済大国で豊かな国、というセルフイメージがすでに勘違いということだ。貧乏な国で所得が低いのは当然の話で、所得を上げるには経済成長をすれば良い、という当たり前の結論しか出てこない。
 
時給だけアメリカ並みにすべきという主張はあまりに都合が良すぎる。アメリカ並みにゴリゴリの資本主義を実現して最低賃金を1500円に上げるべき、という主張ならデモの賛同者はもう少し増えるかもしれない。雇用の仕組みも含めてアメリカ方式にしたい人はアメリカの最低賃金は高い、と主張すれば良い。

最近見ないけど城繁幸氏みたいに「日本もレイオフできるようにすべき」という人もいるからね。

「日本は一人あたりのGDPは世界中で27位」ってことを考えると、円の為替水準は円安どころか過大評価だったりしてね。 財政赤字の大きさを考えると、今後ますます円安になっていったりして。

雇用と社会保障・セーフティネットをごちゃ混ぜにした議論はもう辞めるべきだ。最低賃金が1000円になろうと2000円に上がろうと、失業する人も働けない人もいる。
 
最低賃金がいくら高くてもそういった人を助けることは出来ない。かえって働かざるもの食うべからず、という弱者救済や相互扶助の社会保障からズレた議論になりかねない。セーフティネットは職を失った後の話であり、最低賃金アップが生活に困っている全ての人を救うかのような議論はミスリードとしか言いようが無い。まともに働いても食えない、何も悪い事をしていないのに生活が困窮している……こんな時こそ国は何をやってるんだ、と文句を言うべきだろう。

結局、「自力で浮かぶ人がどんどん上がれる国」にしたいのか、「みんなで少しずつ貧しくなっていく国」にしたいのか、選ばないといけないんじゃないのかな?と思います。

おそらく安保法制どころじゃないインパクトがある話のはずですが、日本人にはまだ「一億総中流社会」の観念がこびりついているので、そこまでの危機感がないのでしょう。
でも早く方針を決めないと船はどんどんと沈みつつあります。 残された時間はあとどれくらいでしょうか?


ところで、

最低賃金1500円デモの批判記事を書いたら主催者から反論が来たので回答してみた。(中嶋よしふみ) - 個人 - Yahoo!ニュース

なぜこんなことを書くのかというと、エキタスさんだけでなく、先日のシールズのデモなどを見ていても、自らの主張に根拠を持たせて多くの人に受け入れられる形にする……という当たり前の事をやらないケースが最近多くみられるようになったからです。(中略)
 
ここで言う根拠とは、データ・ファクト・ロジック(数字・事実・論理)です。もし自分が運営するウェブメディアで、最低賃金を1500円に上げれば低所得者は救われる上に景気は回復する、という主張をエキタスさんのHPにあるような文章で書き手が書いたら、真っ赤に添削して書き直しを命じると思います。それくらい根拠が全く示されていません。(中略)
 
デモへの批判記事を書くと、声を上げる権利はだれにでもあると反論を受けることもあります。それは間違っていませんが、デモに耳を傾ける義務は一般人にも政治家にもありません。根拠のある主張ならば反対意見の人でも耳を傾ける可能性はありますが、ただ文句を言っても無視をされるだけです。

というのは激しく同意ですな。
「チラシの裏」みたいなblogに書くのとは違って、本気で何かを変えたいと思って主張するなら、「震える」とかの感情論じゃなくてエビデンスをしっかり提示すべきだと思います。

とはいえ安保法制では学者さえもエビデンス抜きの主張に終始していた印象があるので、素人の若者にだけそれを求めても酷のような気がします。