新卒採用と年功序列をやめても、普通の人は浮かばれない

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「新卒採用論で無視され続けている普通の学生たちを助けよ」:日経ビジネスオンライン

さて、年功制の話です。欧米も日本も年齢別給与カーブを見ると、ほぼ同じ形をしています。ただし、この中身が全く違います。日本は階層分化されていないから、同じ企業に勤める限り、平均的なところの上下1~2割にほとんどの人が入る。プラスマイナス1割5分の中にほぼ9割の人が入ります。ほぼみんながその形に沿って年功序列型企業になっているのが日本です。
 
欧米はどうかというと、同じ会社の社員でもノンエリートとエリートに分かれていて、ノンエリートは年をとっても、例えば、初任給の1.5倍もいかない給与で働き続ける。例えばフランスだったら、職務階層は、一番上がカードル、その下がエタム、その次が職務限定ホワイトカラー、そしてブルーカラーとなっていますが、エタムクラスのかなりハイレベルのミドルワーカーでさえも、大体課長までしか行けません。(中略)
 
職務主義で、同一労働同一賃金に近い線で働いている人たち、せいぜい1.5倍ももらえないような人たちは、30年間、営業をやっていて、50歳過ぎても、年収は500~600万円ぐらいです。新入社員と100万円か150万円しか違わなくて、教育の必要もない、管理の必要もない。そういう社会です。だから、若者を採る必要がないわけです。
 
だから、向こうは若者の仕事が全然ない。

確かにスペインなどの若者の失業率は25%くらいと聞きます。
それに比べれば、日本はまだマシなんでしょう。

どうすれば良いのかは自分もよくわかりませんが、年功序列をやめて同一労働同一賃金にすれば若者の仕事が増えるというのは幻想なんでしょうね。

つまりあちらでも、エリート層は新卒採用なんです。
 
一方で、ノンエリートの職務採用者は、基本、仕事ができない限り採用されません。なぜなら、熟年層が安いお金で働いてくれてるんだから。とすると、ノン・エリートは、卒業後、無給に近い形で丁稚奉公して仕事を覚えなければいけません。これが、インターンとかアソシエイトとか呼ばれる「若者の辛い」下積みですね。
 
翻って、日本ではどうか。
というと、年功序列型で、熟年層はアウトプット以上に給与をもらっている。(中略)
 
一方で、そうした熟年層に比べると、若年は給与が半分以下と極めて安い。だから喜んで採用する。しかも、それだけ安いから、下働きをやりながら仕事を覚えるのも、社内でしてもらって構わない。というわけで、社外で低給の丁稚奉公するような、インターンなど経ずに採用される。こうした好循環があるわけです。

就職できないかわいそうな若者 vs 既得権益を持つ熟年層の対決図式というのは、何らかの意図があって煽っているんでしょうね。

だいたい経団連とかの経済団体に加盟しているような大企業に、新卒採用で就職できる人は一握りです。

一括採用を壊せと言う人たちのロジックが僕はわからないのは、まず、1000人以上の大企業で見ると、今が13万人ぐらいです。1000人以上ではなくて、これを人気ランキング100位に置きかえて、もっとずっと狭くします。(中略)
 
その超有名企業に限ると、ここはここ10年の平均で1万8000人しか採用していない。(中略)
 
でも、どちらにしろ、考えてほしいんです。ここに入れる人は、平均の2万人内外という現実を。東大と京大と旧帝大、早稲田と慶應と一橋と東工大と東京外語大学、いわゆるその筋のトップランクの大学を全部合わせると、卒業生はもう4万5000人近くいるわけです。つまり、このレベルの大学を出ても、2人に1人も入れない。そんな雇用吸収力の小さいのが、人気企業なのです。ここの雇用慣行をどうこうしろと騒いでも、それほど意味がないのではないでしょうか。
 
ここを既卒3年OKにしたって、無名大学を出て、フリーターとなった人が救われるわけはないでしょう。救われる可能性があるのは、今名前を出した超上位大学の卒業生で、たまたま卒業年次が不況だった、若しくは、留学などをしていて遅れたという人ばかり。要は、「エリートの卵に、さらにチャンスを与える」だけだと思うのです。多くの、「就職できない」といっている普通の大学生には、チャンスはないでしょう。
 
そんなことより、頭を冷やして考えてほしいのです。
 
新卒一括採用は、日本の多くの企業で行われていますが、「新卒一括採用しかしていない」企業は、超大手に限られます。一般的な大手は新卒だけでなく、第二新卒も中途も採用しています。例えば、雇用動向調査で、20代前半の転職市場(パート・バイト・学生ものぞく)は、新卒比8割の規模があることが分かります。この中には、従業員数1000名以上の大手企業が約8万人の採用をしています。新卒が13万人だから、大手に限っても6割以上の規模ですね。(中略)
 
つまり、新卒でダメでも、こうした一般大手や中堅中小でやり直せることはいくらでもできるのです。それも、欧米のような、「インターン」だの「アソシエイト」だのといった厳しい丁稚奉公ではなくて。

政治家もマスメディアも大企業を叩くことで、大衆の溜飲が下がると思っているんでしょう。

じゃあ、若者の就職難は何が原因なんでしょうか?

若者かわいそう論に入る前に、海外空洞化によってなくなったのはブルーカラーであり、不景気になってなくなったのは建設業であり、自由化によって競争力がなくなったのは農業だと、そこに気づいてほしいのです。
 
これらの領域で雇用が失われ、かつて働いていた人があぶれた。非正規問題とは、この延長線上にあると思います。例えば、町工場で働いていた人たちが、工場が潰れて50歳で、工員しかやったことのない人を、どこで雇ってくれますか。実際に、非正規のデータを見ればわかりますが、40歳以上が59%、39歳以下は41%しかいません。40歳未満には学生もいますから彼らを除くと、その比率は37%にまで減ります。39歳というのは別に若者ではないですが、39歳まで含めても、学生を除くと37%しかいない。これを、35歳以下に絞ると、学生を含めても24%、学生を抜いたら、18%になります。これでも非正規は、若者の問題と言えるでしょうか。
 
海外進出で確かに雇用がなくなっている。言ったように、建設業、工業、自営業、農業がなくなっている。そこのあおりを食ったのは、まずそこで働いていた人たちです。彼らは路頭に迷うか、さもなくば、非正規になるしかない。この構造をまず1つ目に僕は言っておきたい。若者かわいそう論に対して言いたいことは、現実の数字から発していない話だということです。

家電業界を中心に工場閉鎖は加速しています。 自動車業界でも、海外からの部品調達が進み、ティア2以下の部品メーカーを中心に雇用が相当失われると思います。
そうすると若者だけでなく中高年の失業者も増えるのでしょうね。

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一方で、正社員がどれだけ減ったか。最盛期の1996~1997年に3800万人いました。今は3400万人で、減っているのは400万人です。非正規が1700万人も増えたのと、この400万人では、帳尻が合わないでしょう。1700万人ふえたのは、明らかに主婦労働、高齢者、学生などです。昔は高卒で働いていたから大卒のアルバイターはそんなにいなかった。という意味で、今まで働いていなかった人の労働参加の方が圧倒的に多い。決して正社員の代替ではありません。
 
それでも正社員は400万人減っています。これは正社員のクビを切って非正規をふやしたと表面的に見て語る人はいますが、これは間違いです。どう間違いかというと、非正規を雇っているわけではなくて、衰退産業、例えば、建設業、工業は、どんどん小さくなってつぶれて、人を雇わなくなっただけです。それから、定年退職によって自然減しながらどんどん小さくなっていく会社もたくさんあります。
 
それは何と連関しているかというのを見ると、一番連関しているのは生産年齢人口です。要は、おじいさんたちがやめた後、補充しない。おじいさんたちがどっとやめる、生産年齢人口から外れていくと、正社員は減っていく。生産年齢人口、65歳までの人口が減れば、当然そこにいた衰退産業はそれで雇用を終えるから、それで終わりで正社員は減っていく。非正規に代替するわけではなくて減っていく。それでいうと、生産年齢人口は1996年のピークから600万人減っています。つまり、正社員が400万人ぐらい減る要因は十分そこにある。
 
そのような話で整理して考えれば、若者が非正規になった、正社員の代替で非正規ができたという話は論拠が薄弱で、そして、それが若者にしわ寄せされているという話は明らかに行き過ぎです。

また人口オーナスですか。 いろんなところに関係するんですね。

この後も雇用マッチング、大手企業の年功給、留学生30万人計画など、興味深い話が続きます。 一読されるといいでしょう。
ぜひ海老原嗣生氏と「ちきりん(©伊賀泰代)」氏の対談とか見てみたいですね。


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