東電「數土会長」が仕掛ける「エネルギー業界地図」大激震 | 新潮社フォーサイト
冒頭で触れた東電の企画部廃止(具体的には経営企画本部事務局への統合)と村松の日本原電転出は、そんな"數土爆弾"が炸裂した格好の例といえる。12年6月に東電社外取締役に就任して以来、數土は不条理な電力業界体質を批判してきたが、その中に日本原電への支払い問題があった。(中略)
このうち、筆頭株主(出資比率約28%)の東電は、14年3月期に「300億円台半ば」を支払ったとされる。數土はかねてから「発電もしていないのに料金を支払うのはおかしい」と批判しており、その矛先は、「いずれ東海第2が再稼働すれば状況は正常化する」と釈明を続ける企画担当の村松に向けられた。1970年に稼働開始した敦賀1号機はすでに44年が経過した老朽原発であり、2号機は87年の稼働で比較的新しいが、昨年5月に原子力規制委員会が直下に活断層があるとの判定を下し、運転再開は困難な状況。東海第2も78年の稼働開始で36年が経過していることに加え、首都圏から約110キロと近距離にあることから、再稼働のハードルは限りなく高い。要するに、日本原電が保有する3基の原発は「どこも動かない」というのが電力業界の外では"常識"になっているにもかかわらず、東電経営陣内では「(巨額の基本料金を)払う払わない」の堂々巡りが続いていたわけだ。
そんな中で數土は主張を曲げず、東電から役員を送り込んで経営の道筋をつけなければ日本原電への支払いを認めないと宣言。結局、当事者の村松が副社長として派遣されることになった。一部の東電関係者は、「村松氏は追放されたのではなく、任務を終えれば戻ってくる『往復切符』だ」と力説するが、數土が解任されて改革路線が無に帰すことでもない限り、村松の"復活"はあり得ないだろう。
JALを復活させた稲盛氏もそうですが、道理に合わないことはしないのは、普通の民間企業の経営者なら当然のことだと思いますけどね。
電力業界は「裏切り者」を排除しようとしているようですが、そんなことやってるヒマがあったら老朽火力を更新した方がいいんじゃないですか?
中でも注目は、発送電分離に代表される電力自由化への対応でしょう。
電力業界の守旧派にとって、數土の主導する改革で最も警戒を強めているのは、火力発電分野での包括提携である。(中略)
東電が敷地を提供する代わりに、提携先企業に火力発電所の建設費を負担してもらう仕組みで、具体的には五井(千葉県市原市)、姉崎(同)、袖ヶ浦(同袖ケ浦市)にある3カ所の火力発電所を最新鋭の液化天然ガス(LNG)火力発電所に建て替える計画を提案する。この3つの発電所の発電設備容量は合計約900万キロワットで原発9基分に相当するが、いずれも運転開始から35-50年が経過して老朽化が進んでいる。一般に100万キロワット級のLNG火力発電所の建設費用は1基当たり1000億円を超すといわれており、実現すれば1兆円前後の巨大プロジェクトになる。(中略)
さらに、電力業界内部の軋轢も表面化している。東電は9月中にも提携先を決定し、来年3月までに共同事業会社を設立する考えだが、數土が率いる現経営陣は、建て替える発電所を個々に特定目的会社(SPC)に移管するプランも進めている。発電所単位の収支を透明化し、電力売買価格の適正化を維持することは、一連の電力システム改革で2018-20年に実施予定の発送電分離を成功に導くために不可欠な要素。小売り自由化後も当面は圧倒的なシェアを持つと見込まれる既存の大手電力が、価格を無視して自社系列の発電所からの買電を優先すれば、市場の競争は機能しなくなるからだ。
だが、大手電力の守旧派の間には、会社解体を加速させるとして反発が強まっている。中でも関西電力は、ここに来て、福島事故の損害賠償のために政府が設立した原子力損害賠償・廃炉等支援機構への一般負担金について、「支払いの返上も辞さない」と、監督官庁である経産省に八つ当たりするほど、東電の包括提携戦略に対する態度を硬化させている。
で、東電の包括提携先がどこになるかですが、どうやら既に中部電力+大阪ガス連合で流れは決まっているようです。
東京電力と東京ガス、一緒にやるのが最適 | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
――東電は燃料上流から発電までにわたる「包括的アライアンス」(合弁会社の設立)を今年度中に結ぶことを計画しており、すでに候補企業へ“ボールは投げた”としている。当然、東京ガスも候補企業だと思われるが、スタンスはどうか。
東電とは、1年以上前から「ビジネスアライアンス」という形で、燃料調達、発電、小売りの3部門すべてで話し合いを続けており、今後も続ける。だが、それと今回の包括的アライアンスとの関係がどうなるのか、さらには12月までの火力の入札募集との関係がどうなるのか、その辺りがまだはっきりわからない。
ただ言えることは、東電と当社の協業の歴史は長いということだ。1969年にLNG(液化天然ガス)を日本へ初めて導入したのも東電と当社の共同プロジェクトであり、現在でもLNG調達では当社の全調達量の半分近くは東電と共同参画しているプロジェクトが占める。袖ケ浦と根岸のLNG基地も東電との共同の基地だ。
首都圏で効率的、安定的にエネルギーを供給する体制というのは、これからも東電と当社が一緒にやればいちばん全体最適になるのではないかと思っている。
――協業の実績を考えれば、包括的アライアンスでも東京ガスと東電の組み合わせは最適であると。
われわれはそう考えているが、東電側がどう考えるかだ。
小売り自由化で最大の新電力になる相手をパートナーにするとは思えませんし、東京ガスの片思いで終わりそうですね。
中部電力も強力なライバルですが、中電-大ガス連合はLNG調達先の確保で先行しているので、組むメリットはあります。
一方で、こんな見方も。
東電のタブー破り、動き出した再編レース 編集委員 武類雅典 :日本経済新聞
好良く言えば、東電と中部電は「協調と競争の関係」になるのだろう。しかし、結局は敵同士なのか、仲間なのか。あるエネルギー業界の重鎮に尋ねると、矛盾しているように思える2つのニュースはつながっているという。(中略)
「東電は、中部電から電力を買えばいいんです。そして、中部電は大阪ガスとエネルギー事業で協力関係にあるから、東電は中部地方で中部電、関西で大ガスの電力部隊から電力を調達するようになっていくのではないか」(中略)
「東電の包括提携には、LNG調達、発電所投資、そして、越境販売での協力が含まれてもおかしくない。その見返りに、中部電や大ガスは首都圏への本格進出の足がかりを求めるのだろう」
Win-Winな関係になればいいですけどね。
気になるのは東電にフラれた東京ガスと、「守旧派の代表」として取り残されつつある関電の動きですね。
興味深いのが、中国電とJFEスチール、東ガスが首都圏で火力発電所をつくるという計画だ。電力業界では、「中国電は、お隣の関電の動きを警戒してきた。規模が大きく、のみ込まれてもおかしくないからだ。それに先手を打って仲間をつくった」とみられている。そこに、JXなど他社がからみ、再編の第2集団に育つ可能性もある。
後に残る電力会社は、水力発電を強みに黒字経営を保つ北陸電力、東日本大震災で大きな被害を受けた東北電力、沖縄電力。そして関電、九州電力、四国電力、北海道電力という原発への依存度が高かった4社だ。ある電力大手幹部は「九州、四国、北海道は地理的に本州から離れている。それぞれの地域で最適解を見つけようとするのではないか」と読む。
注目は関電だ。「ポスト東電時代」の業界のリーダーとして立ち振る舞いが最も難しく、動き出したら影響が大きい。じっと待つのか。打って出るのか。その考え方がはっきりすれば、残る電力再編のシナリオが見えてくるはずだ。
東京ガスが組もうとしているJFEスチールは、東電・數土会長の出身母体というのが面白いですね。
JXは火力発電に積極投資しているので、どの陣営も「つきあいたい」と思っているでしょう。
北陸電力は、関電と東北電力の両者から求愛されるだろうけど、「動かず」かな?
九州、四国、沖縄はそれぞれ頑張るんだろうけど、北海道電力はこのままだと破綻しそうな気がします。