Adaptecが消えた日

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【元麻布春男の週刊PCホットライン】 Adaptecという会社が消えた日

移り変わりの激しいPC業界では、新しい会社が誕生したり、歴史のある会社が消えて行ったりすることは、決して珍しいことではない。それでも、長い間親しまれてきた会社が消えて行くのを見るのは、寂しいものである。今年もいくつかの会社が消えていったが、筆者にとって特になじみ深かったのがAdaptecだ。(中略)
 
かつてほどの華やかさはないにしても、RAIDコントローラベンダーとして、堅実な歩みを始めたかと思われていたAdaptecだが、2007年3 月、投資ファンドであるスティールパートナーズが、株式の10.7%を取得していることが明らかになった。スティールパートナーズは、Adaptecの旧経営陣と対立し、2009年10月、経営陣の退陣を求めて株主の委任状獲得合戦へと踏み込む。スティールパートナーズ側は株式の買い取りを進め、保有率を 14.6%まで高めるなどしたこともあって、スティールパートナーズ側が勝利した。その結果、旧経営陣は退陣、スティールパートナーズから暫定CEOが送り込まれた。
 
そして2010年5月、スティールパートナーズ傘下のAdaptecは、唯一残っていたRAIDコントローラ事業やAdaptecブランドを売却することでPMC Sierraと合意、6月に売却が完了した。事業の実態を失ったAdaptecは、ブランドを売却したこともあって、NASDAQの登録名と同じADPT に社名を変え、ほとんど実態のない金融会社となった。そして7月30日、実態のないADPTに対し、NASDAQは上場廃止決定を通告、30年近い歴史のあったAdaptecという会社は、完全に表舞台から消え去ることとなった。
 
このAdaptecの一例だけで、スティールパートナーズを焦土化経営を行なう濫用的買収者であると断じることはできない(ただし東京高裁が、ブルドッグソースのTOBに関する訴訟でスティールパートナーズを濫用的買収者と認定した事例がある)。また、これが資本主義のルール(法律とは異なる)のうちの行為であることも事実だろう。しかしこれが、企業価値とはいったい何なのか、と考えさせられる事例であることもまた事実だ。資本主義自らが企業活動を損ないはじめている例なのかもしれない。資本主義は善でも悪でもなく、ただ人間の欲望を忠実に反映したシステムに過ぎないと筆者は考えている。

自分も90年代はSCSIを使っていましたので、Adaptecにはずいぶんとお世話になりました。
合掌。