ニューヨーク~マイアミ間の移動がなぜ重要かは住んでみないと判らない

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【インタビュー】ホンダジェット藤野社長…拠点は迷わずアメリカ (レスポンス) - Yahoo!ニュース

Q:アメリカにホンダジェットの生産工場を造ったのは?
 
藤野 ビジネスジェットの主要マーケットはアメリカが一番です。ヨーロッパやアジアが伸びていると言ってもアメリカが一番大きいです。
 
市場に一番近いところでないとニーズに応じた製品が設計出来ないし造れないのは確かだと思います。これはホンダの他の製品にも言えることで、マーケットのあるところで造るというのが大事です。私もアメリカに長く住んで、何でアメリカ人がピックアップトラックをカッコイイと思うかが、今になると判ります。日本に住んでいて映画などで「俺のトラック」と自慢するのが本当のところ判らなかったです。まさにビジネスジェットは、自分で使ってみないと、どのような使われ方をしているからどこが重要なのか、どの性能が設計リクアイアメント(要求)として重要なのか、判りません。
 
だから飛行機を設計する前に企画の半分は決まっています。例えばニューヨーク~マイアミ間の移動がなぜ重要かは住んでみないと判らない。どれ位の航続距離が必要か、速度が重要かというのはそこの市場にいて初めて判る事だと思います。そういったトータルの航空事業、ビジネスジェットを考えた時に、アメリカに居ないとちゃんとしたものが出来上がらないし造れない。造った後にお客様の声も聞こえない。日本にいてそれらの情報を集めるのは至難の業だと思います。それら総合的な観点から初めから迷わずにアメリカに拠点を作る事を決めてました。

そういえばヤンキースの球団本部は、ニューヨークじゃなくてマイアミにあるんでしたね。

【インタビュー】ホンダジェット藤野社長…外寸は小さく、性能とキャビンは上のクラス (レスポンス) - Yahoo!ニュース

Q:ホンダジェットの特徴は?
 
藤野 ホンダジェットは(ライトジェット)クラスで一番小さい領域のサイズですが、性能やキャビンのサイズは上のカテゴリーを実現したことが最大の特徴です。
 
なぜそれが出来たかと言えば、一つは主翼の上にエンジンを付けることで胴体・機体のサイズを大きくすることなくキャビンの中を最大限に使えたからです。言い換えると、今のビジネスジェットは全てエンジンが胴体に直接付いているので、胴体後部の大半にエンジンを取り付けるための構造部材やエンジンに纏わるシステムが占めてしまいますが、エンジンを主翼上にマウントしたホンダジェットでは、その分の胴体の容積をキャビン、トイレ、荷物室など様々な用途に利用できるということです。
 
キャビンスペースのイメージでいえば、このクラスの対座シートでは足元が向かい側の人と重なるのが普通なのですが、ホンダジェットは足元も充分な広さを確保できたことで互いの足が重なることはありません。実際に乗ったお客様からも皆さままず「広い!」というコメントを頂きます。荷物室に関しても、ビジネスジェットは色々なシステムを装着した後に荷物室を設計するのが一般的で、結果として小さなカーゴスペースが数か所あるという恰好になり、大きな荷物は搭載できないことも多いのですが、ホンダジェットの場合はその部分に何もないので1か所に大きなスペースを設ける事が出来ます。米国ではプライベートジェットを、ビジネス以外では遠くのゴルフ場に行く際に利用されることが多く、「ゴルフジェット」と呼ばれることもあることから、6個の大型ゴルフバッグを積めることも設計要件にしています。

週末にちょっとマイアミにゴルフしに行くのが、ニューヨークのエグゼクティブなら当たり前なんでしょう。

【インタビュー】ホンダジェット藤野社長…エンジンが翼の上に落ち着くまで (レスポンス) - Yahoo!ニュース

Q:藤野さんがホンダに入社した経緯は?
 
藤野 大学は航空学科でしたが、自動車をやりたくてホンダに入社しました。実は日本で航空機メーカーに入るつもりはなかったのです。どうしても全体を設計するとか、自分で飛行機を売ると言うこととはちょっと違う……。距離がある仕事が殆どだと思ったのです。自分でコンセプトを考えて、自分で造って、そして自分で売るというようなスタンスで、商品を考えるところまでやりたかった。よりエキサイティングな仕事をしてみたかったのです。そして、それが出来るのは世界でもホンダしかないんじゃないかと思ったのです。(中略)
 
Q:70年代に同様のOTWEM同様に主翼の上にエンジンをマウントしたドイツのVFW「614」という飛行機がありましたが影響を受けたのですか?
 
藤野 ホンダジェットの開発以前から、色々な機体を研究する過程で写真も見ていますし知識として知ってはいました。しかしVFWは成功作ではなく失敗した機体の例なのです。だから失敗した機体と同じことをやるということに対しての危惧というか躊躇いはありました。
 
ただ、よく設計や論文を見てみると必ずしもVFWが抵抗の軽減考慮や構造を考慮した機体ではなかったことも判ってきました。アイディアがおよんでいないと言うか、クルマに例えると同じ4輪ではあるのだけれど、4輪操舵にするなどして「極める」ところまでは至っていなかったのです。素人の方が見るとVFWも主翼の上にエンジンが付いているじゃないか、同じじゃないかと思われるかもしれませんが、技術の観点からはホンダのOTWEMは別の次元の技術を使っているのです。
 
VFWは空力の観点で抵抗を下げるとかキャビンを広げるといったメリットを得る為でなく、単にランディングギアを短くして乗り降りを容易にするといったジオメトリーの観点だけでやったのではないかと思います。
 
Q:デザインスケッチで描くどれくらい前からOTWEMで行こうと思ったのですか?
 
藤野 ホンダジェットの前の機体も、コンセプトは違いますが主翼の上にエンジンを乗せたのですが、メリット、デメリットを検討した結果、その時はもう可能性はないと感じました。そのプロジェクトが終わり、次の新しいトレンドを考える96年から97年の間に色々考えた末に可能性があると思ったんです。
 
そのきっかけは、とても古くて今の人は読まないんですが、学生の時に一度読んだプラントルが書いた空力に関する教科書を偶然に読む機会があり、学生の時はコンピューターも無く気が付かなかったのですが、副素関数を使って空気の流れを組み合わせる解析手法に目がとまったんです。当時は当たり前のことだと思ったのですが、見方を変えると流れを組み合わせてベストの流れを作ればいいんじゃないかと考えが変わったんです。主翼にエンジンを付けた状態でベストの流れを作る機体が出来れば可能性があると気が付いたんです。
 
それまではダメな事例だとか、なぜダメだったか、どうすればダメな事を減らせるかという見方だったものが、これはプラスに使えると気持ちを転換したんです。物の見方がそれまでの10年とその後の10年で大きく変わりました。最初の10年は凄く勉強してきて専門家気どりでどんな質問にも答えられた自負心を持っていたんですが、単に他の人がやった仕事を知識として知っていて、それを説明してるのはエンジニアの仕事なんだろうかと疑問がわいて、一回今まで学んだものを捨ててしまわなければいけないんじゃないかと気分転換になりました。それでアイディアが浮かびました。

航空機の設計を志す人は多いと思いますが、「自分でコンセプトを考えて、自分で造って、そして自分で売る」を実際に出来た人は海外でも滅多にいません。 藤野社長はとても幸せな人だと思いますね。