トヨタの苦境は「デミング博士の教えを忘れたから」

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デミング博士の教えが色濃く反映されていた姿はどこへ:日経ビジネスオンライン

私は過去5、6年、「あと数年の内にトヨタはピークを過ぎるだろう」と予想をしてきた。現在、これが現実になる可能性が出てきている。このことは青山学院の大学院で私のクオリテイ・マネジメントのクラスや私が行った企業内での多くのセミナー、またはその他の公開のセミナーなどで公言してきたことなので、これらのクラスやセミナーに参加した数多くの方々は記憶しておられる事と思う。
 
また、日産のゴーンさんがV字回復を指導して、日本中がゴーンさんの経営手腕を称賛していたころ、「ゴーンさんのやり方はもうじき行き詰まり、大幅な修正を迫られるであろう」と予測した事も、私のクラスやセミナーを受講した方達は覚えておられる事だろう。
 
その後、日産では、かの有名な「コミットメント」(必達目標)は撤回された。デミング哲学をまとめたデミング14ポイントには「数値目標による管理を止める事」というのがあるが、数値目標を強いられれば、その目標を達成するためには必ず質は犠牲にされる事になる。質を犠牲にした企業が発展することは決してない。

管理の指標として数字を用いるのは必要ですが、数字自体を目標にしちゃうとダメよ、ってことでしょうか?

で、なぜトヨタはお家芸の「カイゼン」がうまく働かなかったかですが、

トヨタは大きな組織体であるがゆえに、販売の現場で顧客からの苦情やそのほかの大事な情報が大量に入っていたはずである。それにもかかわらず、それが設計者や工場現場の人々やトップマネジメントにフィードバックされない状態になっていた。
 
販売の現場で工場並みの小集団活動がおこなわれていたならば、今回の問題はもっと初期の段階で食い止められていたのではないか。TQMというのは工場のみならず、製品が工場を出て消費者の手に届くまで、いや、それ以上に消費者の手に渡ってからの修理やメンテナンスを含めて、その製品に携わるすべての人々によって品質向上に努力が払われて初めてTQMと呼べるのである。

この「カイゼンが実行されていたのは工場だけ」と言う話は、トヨタの関連会社で働いていた米国人が同じことを言ってましたね。

郵便事業会社のトップに役員を派遣して、トヨタ生産システムを持ち込んだりしてましたが、民営化でサービスが低下したのは不在の荷物を受け取りに窓口に行ったときに待たされる時間が長くなったことでもわかります。

日本郵政公社、トヨタ方式導入で4兆円の利益生み出す - ニュース - nikkei BPnet

4月からの公社化を機に、これまで築いてきた公的サービスとしての事業基盤を継続しつつも、無駄の無い効率的な事業体制を早期に確立する。具体的な効率化策としては、“トヨタ方式”と呼ばれている生産方式を全国の郵便局(約2万4800局)で導入することなどで、従業員の行動パターンなどを見直し、4年間(2003年度から2006年度)で4兆円の利益を生み出す計画。このうち郵便事業は2002年度だけで300億円程度の赤字となる見通しだが、この4年間で500億円の利益が出るようにする。

トヨタ自身がサービス分野で「カイゼン」が機能していなかったのに、他社に移植してもうまくいく確率は低かったでしょう。

東京新聞:郵便事業会社 北村会長が退任へ トヨタ出身 民営化後退色濃く:経済(TOKYO Web)

日本郵政グループの郵便事業会社の北村憲雄会長(68)が、今月末にも退任する見通しであることが十三日、分かった。北村氏はトヨタ自動車出身で、二〇〇七年十月の郵政民営化に伴い会長に就任した。民間出身者の退任により、郵政民営化路線の後退がいっそう鮮明になる。

結局は、木に竹を接ぐようなもんで、組織の土壌とか文化を抜きにして、手法だけを移植しようとしてもムリだということですね。

元の記事に戻ると、

最近QCサークル全国大会に出席した人から、現在トヨタのQCサークルでは失敗が許されないという話を聞いた。トヨタのQCサークルは経験も豊富で、熟練度も高く、完成度が高いのは疑いの余地はない。だからといって、トヨタのQCサークルは失敗をする事がないのか。
 
本来のQCサークルとは、むしろ失敗するためにある。私が企業で指導している小集団活動はよく「吉田失敗道場」と呼ばれている。失敗を恐れず、失敗を重ねることによってしか、人間は学ぶことはできないし、進歩もないからである。失敗を認めない雰囲気の所では、万一失敗したQCサークルは失敗した事実を報告せず、何とか隠そうとする。つまり、完全性を推し進めたがために、「不都合な真実」が現場からトップに届かないシステムになってしまったのではないだろうか。
 
QCサークルは本来ボトムアップの情報の流れを促進し、それにより、現場の作業員の勤労意欲や創意工夫を最大限にする役割を担っている。しかし、トヨタの現場では途中から、方針管理に象徴されるようにトップダウンの性格を強く持つ小集団活動になっていった。つまり、小集団活動が上意下達の一つの道具となり、上からの意志は効率的に下部に行き渡ったが、前述の失敗を恐れる環境と合わさり、ますます「不都合な真実」が現場からトップマネジメントに届きにくくなっていった。端的に言えば、小集団活動のもっとも重要な役割が抹殺されていったと考えられる。

本当は初心者には失敗を経験させて、なぜ間違ったのか学ばせなければならないのですよね。 最初から答えを教えて、正しいレールの上だけを走るのでは、本当に身についたことにはならないということなんでしょう。

トヨタと取引のあるかなり多くの企業で聞くのは、トヨタの社員は時として傲慢になることがあるという事である。色々と困難な条件を提示され、「それが飲めないなら、ソチラとは取引しなくてもよいのだ」というような事を言われたことがあるという話を聞く。トヨタの有名なジャスト・イン・タイムも、仕入れ先のほうではその条件を満足させるために在庫を維持しなければならなかったりする場合もあるようである。このような仕入先や関連会社に対する無理強いやしわ寄せが行われていたとすれば、これも“恐怖によるマネジメント”であり、ボトムアップの情報の伝達を阻害する大きな要因となる。
 
デミング14ポイントの中に「全員が会社のために効果的に働けるように恐怖心を取り除くこと」というのがある。恐怖心のある所では真実は伝わりにくい。 (中略)
 
TQMが全社に行き渡っていないとか、現場の問題点が従業員の恐怖心のためにトップに伝わらないとかいったことは、単に品質だけの問題として解決することはできない。つまり、製品の不具合として出てきた今回のリコールは単に品質の問題にとどまらず、氷山の一角としての現象形体のように思えるのである。これが正しいとすると、今後も、いくつもの問題が起きる可能性を秘めており、従って、現在のトヨタの企業文化そのものを変えていく事なしに、この問題を解決する事はできないと言える。どのような企業文化を育てそれを浸透させていくかは、トップマネジメントだけが解決出来る問題なのである。

恐怖心というか強迫観念というか、そういうものを「動機付け」として業務に邁進するのが、正しいトヨタマンの姿であったワケですが、ゆとり世代が増えてきて変わってきたんじゃないでしょうかね? よくわかりませんけど。